第45話 三賀町

 輸送機の運転席に座り、魔力エンジンを起動。これと言った音はなし。ってか無音です。


 構造とか仕様とか万能だからと納得してください。おれには上手く説明できん。


 レバーを飛行モードに移すと、機体がふわりと浮く。反重力的なものです。


 これと言った説明は省き、空へと上昇する。


 魔力節約のために本当なら地上を進みたいのだが、生憎とおれが住むところまでは馬車が通れるような道はない。飛ぶしかないのだ。


 なら街道に出たら道を走るのかと言われたら、走らないと答えよう。


 今回は買い出しだし、道を進んだら結構な時間がかかる。目的の港町は、花木村を流れる三白川みしろがわの下流にあり、三白川近辺の米が集まる場所でもある。


 米が集まるところには人も物も集まる。買い出しには適したところなのだ。


 それに、港町──三賀町さんがまちまでの地図も欲しい。いずれは地上を移動して物を輸送したいからな。


 花木村から三賀町まで約六十キロ。まあ、世界が違うので単位は違うが、前世のほうがわかりやすいので自動変換させてもらいます。


 輸送機の最高速度は五百キロ。プロペラ機並みだが、速度を競うものではない。安全第一の乗り物。二百キロで飛んでも十分くらいで着いてしまう。


「お、久しぶりの海は感動するな」


 前世でも空から海を見たことはあるが、自分の運転で異世界に海を見ると思ったと、言葉にし難い感動があった。


 しばし空を旋回して異世界の海を楽しんだ。


「お、異国の船が多いな」


 東の国の都にでもいくのだろう、前に来たとき、護衛していた商人がそんなことを言っていたから。


「飛空船はいないか」


 一回しか見たことはないが、船が空を飛んでいる光景は、海を見る以上に感動があったものだ。


「いつか飛空船で空を旅したいものだ」


 輸送機は輸送機。飛空船は飛空船。ロマンの種が違うんです。


「……う、うぅ……」


 荷台からハハルの目覚める気配がした。


「ハハル、起きたか?」


「……おじちゃん? え、ここどこ!?」


 寝起きなのに自分がいる場所がテントではないと気がつくとは認識力(?)が優れた娘だ。


「ここは、輸送機の中。三賀町に到着したところだ」


「輸送機? 三賀町? 意味がわからないんだけど……」


 まあ、それで理解されたら逆にこちらが戸惑うわな。


「窓から外を見てみろ」


 小さいが、明かり取りの窓は作ってある。外を確かめるには充分だろう。


「…………」


 なにやら背後で絶句している気配が。さすがのハハルも受け入れられないようだ。


 まあ、静かなので、今の内に輸送機を降下させる。


 港の使用方法など知らんが、とりあえず空いている桟橋に向けて降りることにする。


 万能さんによる補助により、滑らかに着水して桟橋へと横づけた。


 運転席を出て桟橋に立つ。しばらくして役人風の男とガタイのいい男が二人、こちらへとやって来た。


「管理所のナルマだ。この船はどこの所属だ?」


 役人風の男がそう言った。背後の男たちは、睨むようにおれを見る。警戒されてる?


「所属はしてない。個人使用だ。ちなみに、どこにも登録してない。必要ならするが」


「個人だと? こんなものを個人で持てるのか?」


 もっともな疑問です。


「持てるのは持てるが、維持に苦労しているよ。魔道具なもんで魔石を必要とするからな。置き賃、後払いがあるなら助かるんだが」


 肩を竦め、役人風の男に同情を求める。


「身分証はあるか?」


「身分証はないが、おれはタカオサ。出身は花木村。元傭兵なので村の外れに住んでいる。姪のハハルと買い出しに来た」


 今わかるおれの名前。よかったら覚えててください。


「元傭兵ではあるが、まだ登録名は消してない。三賀町の傭兵組合で仕事をもらったから名前はあるはずだ」


 堂々と答える。こう言う場合は下手に腰が引けると、余計に疑われるからな。


「花木村は知っているが、こんな船があるとは聞いたことがないぞ」


 まあ、こんな目立つものがあったら噂にはなるわな。


「これは、昔知り合った大陸の貴族からもらったものだ。正解に言うなら森王鹿の角と交換した」


 森王鹿の価値を知っているのなら、魔道具と交換も頷けるはずだ。いや、是非とも頷いて欲しい。


「登録は管理所でしろ。登録料は銀銭十五枚。桟橋の使用料は一日銀銭一枚だ」


「桟橋の使用料の相場は知らんが、銀銭一枚は安くないか?」


 駐車場に一日停めるような金額じゃね?


「使用料は船の大きさで決まる。この船なら小型船料金だ」


 へ~。そう言う決まりがあるんだ。


「銀銭一枚は助かる。登録も後でも大丈夫かい? 元手を稼がないと払えないからよ」


「では、仮登録だけしろ。係の者に言えば処理してくれる。だが、払えないときは管理所権限で押さえるので注意しろ」


「ちゃんと決まりに乗っ取ってんだな」


 もっといい加減で、袖の下がまかり通ってるのかと思ったよ。


「不正でもしたら首が飛ぶからな」


 上司が優れてるのか、三賀町の町長が優れているのかは知らんが、法がちゃんと機能しているところは助かる。


「真面目に生きるのがなによりだな」


 肩を竦めて立ち去る役人風の男。真面目に生きてないヤツに苦労させられてる感じだな。

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