第44話 母と娘
買い物をするには元手が必要である。
が、カナハを引き取りで、蜂蜜で稼いだ金のほとんどは使ってしまった。
残るのは銅銭八枚。町でなら飯を四回食えばなくなる程度のもの。元手にもならん金だ。
「一番簡単なのは剣か」
森王鹿の毛皮や角はあるが、あれは計画に使用するから売ることはできない。市で少量売るならともかく、大量となれば信用がなければ買い取ってはくれない。まあ、昔知り合った商会なら買い取ってくれるかも知れないが、今後を考えたら残しておきたい。
「金銭二枚あればしばらく生活するだけの物資は買えるんだから、それなりの剣でいいか」
優れた剣は逆に売り難い。見抜ける鑑定士は都に集中しているから、買い叩かれる場合があるのだ。
「剣とナイフ二本でいいか」
採取ドローンは金属──まあ、砂鉄くらいしか集めてきてないのだが、剣を二、三十本は作れるだけの量は集めている。
無造作に置いた砂鉄の山に手を突っ込み、万能スーツを通して剣──青竜刀を作り出す。
「……中堅の傭兵が持つには、ちとよすぎだな……」
金銭四枚。いや、金のあるヤツなら金銭六枚は出すな。おれも金があったならそのくらいら出したくなる質だ。
「家宝ってことにしよう」
ナイフはちゃんと質を落とし、二本作る。
むき出しではちょっと怪しまれるので、青竜刀は森王鹿の革を使って作り、ナイフは木で作った。もちろん、万能スーツを通して作りました。
「捨て値でも金銭三枚はいくだろう」
それだけあれば必要なものは大概買える。あ、銅銭も仕入れなくちゃならんか。
できたものを輸送機の荷台に放り込み、家へと向かう。
家の中ではハルミが藁座布団を編み、ミルテが握り飯を作っていた。
「ミルテ、これから買い物に出かけるな」
「あ、うん。昼ように握り飯を作ったから持っていって」
昼飯か。あっちで適当に食おうと思ったが、おれを思って作ってくれたのなら握り飯が優先。どんな高級料理より価値がある。
「ありがとな。ミルテがいてくれて助かるよ」
気が利く女がいてくれるだけで生活水準が百段上がったようなものだ。土産に櫛でも買ってこよう。いや、作ったほうがいいものができるか?
「あ、おじちゃん、これに入れて」
と、熊笹で編んだ入れ物を差し出した。
「ハルミはそう言うものまで作れるのか、凄いな」
熊笹はおれもよく使うが、こんな編み方もあったんだな。素直にびっくりだよ。
「エヘヘ。あたし、こう言うの得意なの」
照れながらも自慢気に言うハルミ。可愛いものだ。
「ありがとな。あ、ハハルも連れていくからもう一つ頼む。ミルテも頼む。カブの漬け物もそえてくれ」
「うん、わかった」
「任せて」
まったく、いい母と娘だよ。
泣きそうになるのを堪え、念のために蜂蜜酒とプロラジュースを持っていくことにする。味を知ってもらう用に、な。
しばらくして二人分の握り飯ができ、これまたいつの間にか編んだ藁籠に入れて渡してくれた。
「こうやって売るのもいいかもな」
弁当文化はあるし、旅の定番は握り飯だが、作ってもらうのは宿だったり料理屋くらい。専門の弁当売りとかはなかったはずだ。
まあ、おれが見てないだけであるのかも知れないが、街道に茶店とか出して売れば、それなりに儲かるかもな。
「ハルミ。これをいっぱい作っててくれ。いずれ使うからよ」
長期保存しておけば腐らんし、万が一売れたとき、作り置きがあるのは助かるだろう。
「うん! いっぱい作るよ!」
頼むぞ、とハルミの頭を撫でてやる。
「それじゃ、出かけるな。夜までは帰ってくるから留守を頼む」
「うん。いってらっしゃい」
「おじちゃん、いってらっしゃい」
二人の笑顔で見送れて家を出る。
蜂蜜酒にプロラジュース、昼飯を輸送機の荷台に乗せ、テントへと向かいう。
「ハハル、起きてるか?」
声をかけるが返事はなし。なので、構わず中へと入る。
「こいつは繊細なのか図太いのか、よーわからんな」
気絶したクセに健やかな寝顔を見せるハハルを連れ出し、輸送機の荷台へと放り込んだ。
犬小屋へと向かうと、我が家の番犬様も健やかな顔で寝ていた。
「
「……飯はどうなる……?」
ため息の一つでも吐きたくなるが、食うのも仕事なので、ため息を無理矢理飲み込んだ。
「カナハに頼んである。あと、ハルマが魚を釣ったのならそれも食っていいぞ」
釣れるかどうかは知らんけど。
「それなら問題ない。いってくるがよい」
「それと、これを置いていくから魔力が回復したらこの板に足を乗せろ。それで魔力を吸い取るからよ」
いただける魔力はいただく。1魔力でも捨てたりはしないのだ。
「こんなもので吸い取るのか?」
どれと板に前足を乗せる
「お、吸い取っておる吸い取っておる。おもしろいな」
なにがおもしろいかは知らんが、拒否感がないのならこちらに否はない。好きなだけ吸い取らせてください、だ。
「そんじゃ、いってくるよ」
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