第43話 マギスーツ

 買い物に出る前に、カナハとハルマに軽い手解きをする。


 まずは、ハルマ。これまで使っていた釣竿をハルマに渡した。


「本当は舟で釣りをするんだが、ハルマは泳げんから陸から釣りをする。エサのミミズを探せ」


「わかった!」


 田舎の子どもなだけあって虫に抵抗はなく、すぐに見つけてきた。


 ミミズのかけ方を教え、針を湖に投げさせる。


「浮きが二、三度反応して、沈んだら引き上げる、が基本だが、見極めは数をこなすしかない。糸が切れたり大物がかかったときはカナハを呼べ。カナハも釣りはできるからよ」


 おれになついてたカナハには、サバイバル術を教えてある。釣りも捌くのもお手の物だ。


「カナハ。呼ばれるまではハルマにやらせておけな」


「わかった。釣れたものはどうするの?」


「大漁なら昼に食うなり、翡翠ひすいにやるなりしろ。それでも余るようなら生け簀に入れておけ」


 以前、自分で食うように生け簀は作ってある。今は一匹もいないがよ。


「カナハもいずれ手下を持ってもらうから、ハルマの面倒をよくみて手下の扱いを覚えろ」


「おれ、カナハねーちゃんの手下なの?」


 男としてのプライドを傷つけられたのか、ちょっとムッとしてる。


 ハルマから釣竿を奪い取り、カナハに『やれ』と目で合図する。


 理解したカナハはスッと動き、ハルマを一本背負いをして大地に叩きつけた。もちろん、手加減してな。


 この国には前世のような柔道──柔術がある。おれも本格的に習ったわけじゃないが、兵士時代にやらされた。


 筋がいいと、戦大将の練習相手にさせられたものだ。今考えると、レベルアップの能力があったからできたんだろうな。


「カナハに仕込んだ年数はお前より上だ。つまり、おれの一番弟子。二番弟子は上を立てろよ」


 茫然とするハルマを立たせ、釣竿を渡した。


「がんばれよ」


 いろんな意味でな。


 釣りは任せ、カナハを家の前の砂浜に連れいく。五十メートルは離れているが、ハルマの声とカナハの足なら余裕の距離だろう。


「まずは、カナハにこれを渡しておく」


 万能素材で作ったナイフを渡す。


「……なにか、仕掛けがあるの……?」


「やはりわかるか」


「そりゃ、石や紐で戦う術を教えてくれたおじちゃんが渡すものが普通なわけないもん」


 呆れたように肩を竦めるカナハ。ちょっと仕込み過ぎたかな?


「そのナイフを持って、リングと言ってみろ」


 疑問に思っているだろうが、それを口にすることなく『リング』と呟いた。


 と、ナイフが溶けたように崩れ、カナハの腕にリングとして変化した。


「こ、これも魔道具箱なの?」


「まあ、魔道具と言うよりは魔法具と呼んだほうがしっくりくるかな? 次にロッドと言ってみろ」


「ロッド」


 すぐに言葉を紡ぐと、カナハの手に一・五メートルのロッドに変わる。


「他にも変えられるが、今はその二つだけ知ってればいい。翡翠ひすいがいるから安全だとは思うが、黒走りにまで気を使うとは思えんから、これで対処しろ」


「一匹二匹ならなんとかできると思うけど、昨日みたいに六匹とか無理だよ!」


「慌てるな。まだ渡すものはある」


 カナハ用のネイルガンを渡し、おれもネイルガンを出す。


「これはネイルガン。針を射ち出す武器で、主に生き物に使う。金属や岩だと跳ね返るから注意しろ」


 口で説明するより使ってみろと、湖に向けて射たせてみる。


「おじちゃん、これで倒せるの? なんか弱そうなんだけど」


 まあ、二センチの針を射ち出すから音もないし、水飛沫も上がらない。銃を知らなきゃ威力もわからんわな。


 ちょっと待ってろと言い残し、丸太置き場に向かい、的に向いた感じの丸太をブレードで削って尖らせ、担いで戻る。


 適当なところに丸太を砂浜におもいっきり突き立てる。


「カナハ。丸太に向かって射ってみろ」


「わかった」


 ちなみにカナハは両利きで、左手にネイルガンを構えてます。


 引き金を引き、針が丸太に飲み込まれた。


「カナハにやったものは威力の低いやつで、狼までなら余裕で倒せるし、さらに威力を弱くして毒針や麻酔針に変えれば敵を捕らえることも獣を狩りもできるんだよ」


 カナハには武器を持つ意味や覚悟を説いてきた。なので、説明はそれで充分。あとはカナハの矜持に任せる。


「まあ、ネイルガンもあとだ。まずは魔力操作だ。風呂に入りたいだろう?」


「うん。あんなに気持ちよくなるなら毎日入りたいよ」


 フフ。そう言うところは女の子だな。


「では、おれの手を握れ。ちょっと反則ではあるが、魔力操作を教える」


 万能素材で簡易万能──いや、マギスーツを作り、カナハに纏わせる。


「お、おじちゃん!?」


「落ち着け。今、お前に纏わせたのはマギスーツ。薄いが狼に噛まれても平気な強度があり、魔力500を注ぎ込んである。なので、今のお前は魔力563ある。わかるか?」


 そう言う設定にはなってるはずだ。


「う、うん。なんか変な感じ……」


「まあ、そこは慣れろ。んじゃ、指先を湖につけてみろ」


 ぎこちない動きをしながら指先を湖につけた。


「マギスーツが補助──こうやるんだよと教えくれるからその通りにやってみろ」


「わかった!」


 やる気に満ちたカナハに頷き、買い物へ出かける準備をする。

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