第41話 ないない尽くし
まずは、魚を獲るために湖へと出た。
昨日、米と味噌を少しもらった。ならば、魚の塩焼きと味噌汁を食べようではないか。いや、これからは毎日食べるべきだ!
飯と菜っ葉の漬物なんてもう嫌だ。前世の記憶と能力が目覚めたのだから生活水準を高めなくては、なんのために願ったのかわからない。これからはいい暮らしをするのだ!
中央にいかなければ
いつもなら網で一網打尽だが、今日は朝飯に必要な分だけ。三匹も捕まえればいいので、指先を湖に入れ、万能糸を放って即捕獲。四十センチくらいの鱒を湖から釣り(?)上げた。
「うん。旨そうだ」
ぷりぷりに太った鱒は塩焼きが一番。だが、今ならバター焼きでも鱒鮨も作れる。おれ、鱒鮨、好物なのだ。
「そのうち養殖場も作らんとな」
鱒鮨で村おこし、ではないが、特産として売り出すのもいいだろう。この村は町と町の真ん中辺りにある。行商隊の弁当として売り出せば自然と広まるだろうしな。宣伝費はタダだ。
将来を考えながら舟を戻した。
「おじちゃ~ん!」
岸にハルマとミルテの娘がいた。あ、そう言えば、娘の名前、訊かなくちゃな。
「おう。早いな。ゆっくり眠れたか?」
「うん! 寝過ぎで体が怠いくらいさ!」
昨日、腹いっぱい食ったからか、すこぶる元気である。心なしか肌の色もよく見えた。
「おじちゃん、釣りか?」
「ああ。朝飯のおかずだ。二人は魚を食ったことはあるか?」
それなりには村に卸しているが、すべてに回ることはない。ましてやあの家ではまともに食えてなかっただろう。
「小さい頃、食ったかも」
「うん。小さい頃、食べた」
もう味の記憶などないって顔をしていた。
「そうか。これからは飽きたって言っても食わせるから覚悟しろよ。ほら、魚を持って家にいくぞ」
舟から魚を取り、一匹ずつ渡す。魚にも慣れてもらうためにもな。
あたふたと魚を持つ二人を温かい気持ちで眺めながら家へと向かう。
「
エサ皿にはもう肉はなくなり、犬のようにペロペロ皿を舐めていた。
……こいつの野性が死ぬ前に山に連れていかんとな……。
「一匹だけだぞ。魚はおれたちの朝飯なんだかよ」
「口直しだ。一匹で構わん。だが、昼は五匹は頼むぞ」
魚を咥え、バリバリと食い出した。こりゃ、町に買い出しにいかんと湖の魚を食い尽くされそうだな……。
「わかったよ。あと、魔力もらうぞ」
「おう。昨日と同じくらい持っていけ」
随分と気前がいいが、まあ、もらえるのならもらうまでだ。
昨日の夜、魔力を復活させた翡翠ひすいから四千もらったので今日も四千もらった。
「うむ。昼までよく寝れそうだ」
七割以上もらったのに、軽やかに犬小屋へと戻っていく
「あんちゃん、おはよう」
ミルテが家から出てきた。なんか一仕事終えたような顔で?
「あんちゃん、朝飯はどうするの? 竈がないからどうしていいかわからなくて」
竈は取っ払い、電子……ではなく魔力ジャー(?)にした。飯を炊くのも一苦労だからな。
「うちは勝手に炊けるから大丈夫だ」
家へと入り、五合炊きくらいの魔力ジャーを見せる。
「あとで教えるが、保存庫に入れた米がなくならない限り、勝手に米が炊ける。ここを押してみろ」
魔力ジャーの開けボタンを教えて、押させてみる。
「……米が炊けてる……」
理屈がわからないようで、不思議そうな顔でいろんな角度から魔力ジャーを見ていた。
「勝手に閉まるけど、水分が飛ぶからすぐ閉めることな」
ついでなので台所にあるものを教えていく。
「味噌や醤油なんかはもうちょっと待ってくれ。金を稼がなくちゃ買えんからよ」
もらった味噌では二日と持たない。味噌汁は三食食いたいぜ。
「あ、この人数だと鍋も大きめのじゃないとダメか。出汁も必要だしな」
万能でなんとかなるとは言え、輸送機はあと数台は作りたいし、長期保存庫も欲しい。押さえられる魔力は可能な限り押さえたいのだ。
「……買い物にいくか……」
村長がいつ来るかわからんし、来ないかも知れない。備えは早めにしていたほうがいいかもな。
「おじちゃん、魚……」
おっと。今は朝飯が最優先だったわ。
「ワリーワリー。今日も元気いっぱい生きるために腹いっぱい食わないとな。ミルテは魚を捌いたことはあるか?」
「小さい頃、あんちゃんには教わったけど、あれから丸々一匹なんて見てもいないから忘れたよ」
あーそう言えば、よく花崎湖に魚捕りに来て、皆に捌き方を教えたっけな~。
「まあ、今日はおれがやるから見ておけ。明日から任せるからよ。失敗しても
ないない尽くしで笑えてくるな。生活するってことを舐めてたわ。
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