第38話 姪のハハル
緊迫した空気が満ち──ることはなく、皆さん、きょとんな顔になった。
これは、カナハの価値が低いことを意味し、使い物にならない女をもらう意味がわからないと言ってるようなものだった。
別に家族愛がないわけじゃない。それなりにはある。だが、過酷な状況では働ける者が優先され、価値があるのだ。
カナハに任せる仕事もなく、米作りも飯炊きも予備の予備。いたら使うが、いなくても困らない存在だ。
そんはカナハを引き取るなど、想像だにもしなかったことだろうよ。
「不服か?」
少し時間を置いてから兄貴に問う。
「……あ、いや、不服とかじゃなくて、お前、本気で言ってるのか……?」
「もちろん、本気で言ってるぜ。こいつには──ってか、うちの先祖、魔術士とか出してるか? お袋も魔力23あるし、兄貴は25もある。ハルマなんて二歳なのに10もありやがる。今から鍛えたら確実に魔術士になるぞ」
レベルアップする能力は肉体だけだが、53もあるなんてあり得ない。それこそ小さい頃から鍛えていれば魔術士にはなってたぞ。
「うちは、代々……いや、この村に住みついたご先祖様は傭兵だったはずだ」
と親父が昔を思い出すように口にした。
「傭兵か。確かに魔術も使える傭兵がいたな」
まあ、ほとんどの傭兵は魔術は使えないが、日常生活に必要な魔術を使える者は結構いた。野外活動が多いから、火おこし、水生成、虫避け風、竈生成と、なにか一つはできないと傭兵としてはつま弾きにされるのだ。
「それでうちの家系は魔力が多いんだな。納得だわ」
体力と同じで魔力も鍛えなくては増えない。それが20もあれば才能があるってことだ。カナハなんて一年もあれば十倍になってんじゃないか?
「カナハを傭兵にしようってのか?」
「傭兵か。私設の魔法傭兵隊とかいいかもな」
独自の戦力を持つことは考えてたが、魔法を使える集団がいてもいいな。いずれは大陸にいくことも視野に入れてよ。
「よし、カナハ。お前、魔法傭兵隊の初代隊長な」
きょとんとするカナハ。うちはすぐきょとんとするな。血か?
「で、カナハを引き取ってもいいよな、兄貴」
笑顔で兄貴に問うた。
「好きにしろ。身請けするよりはお前にやったほうが安心だからな」
親の愛はあるって証しだな。
「ほんじゃ、今日連れてくな。カナハ用意しろ」
まあ、用意するほどの荷物はないだろうが、まったく私物がないと言うわけでもない。風呂敷一枚分はあるだろう。
「おじちゃん、あたしも引き取って!」
と、ハハルが声を上げた。
「ハハル! お前は家の仕事があるだろう!」
お袋、姉貴、ミルカがいて家の仕事があるとは思えないが、それはハハルが頑張ったから。でなければ床の上にはいられない。
家族内には順位があり、使えない者は土間に座らされる。今のカナハがいるところに、な。
「おじちゃん、あたし、飯炊きでも掃除でもなんでもやるからお願い!」
ハハルか、と考える。
十八歳と若いのだから、鍛えるのは遅くはない。並み以上にはなると思う。いい人材と言えばいい人材だろう。
だが、カナハほど度胸はよくない。何度か米を持ってきてもらえないかと頼んだことがあるが、村の外に出たくないと断られた。
それに対して思うことはない。ハハルは普通でカナハがおかしいのだからな。
おれのところに来るからには覚悟は欲しい。なんたって村の外で暮らし、翡翠ひすいと関わってもらうのだからよ。
かと言ってハハルの才能を捨てるのは惜しい。度胸はないが、根性はある。抜け目のないところも、自己主張できるところも、自分の居場所を自分で勝ち取ったことも、おれは素晴らしいと思う。
……ハハルは、前より後ろで活躍するタイプなのかもな……。
「兄貴、金がないんで物でいいか?」
「お前、本気か?」
「本気は本気だ。カナハに払った分の物を渡す。あと、土地を借りる代金分も払う」
首を傾げる兄貴。口で説明するの時間がかかるので、外に連れ出した。
「ちょっと暗いな」
三十センチほどのドローンを作り、上空に飛ばしてライトを点ける。
五百ルスクなので眩しいくらいだが、広範囲を照らせるから問題なし、だ。
「……そ、それも魔道具か……?」
「魔力を貯めたら売ってやるぜ。もちろん、こんなに明るいものじゃないがな」
五百ルスクもあったら逆に目が悪くなるわ。
「ハハルの代金はこれだ」
万能素材で草刈機を作り出す。
もちろん、エンジン付きのを作っても意味がないので、魔力で動かし、風の刃で草を刈る仕様にする。
「まず、おれが実演するからちゃんと見てろよ」
ベルトを肩にかけ、草刈機を構える。
「左手のポッチが草刈機──草刈具を起動させるもので、右手のポッチで風の刃が生まれる。離すとなくなる」
ポッチを見せながらポッチを押したり離したりしてみせる。ちなみに音は極消音です。
「草刈具の魔力容量は50で半日は使えるが、堅い木とか切ると消費は早くなるから注意しろ」
風の刃の鋭さや回転を調整しながら伸びた草を刈っていく。うん、こんなものか。
「兄貴もやってみろ」
戸惑う兄貴に無理矢理草刈具を装着させる。
「慣れるまでは高く刈ればいい。地面に近すぎると石を弾くから注意しろ。あと、姿勢が悪いと無駄な力がかかって疲れるからな」
軽い注意をして、実践あるのみと草刈をやらせた。
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