第33話 家族団らん

 蜂蜜酒。それは前世ではなく、今生で知った。


 まあ、高級酒扱いなので傭兵では手に出せなかったので、味はわからない。が、人気なようだから旨いのだろう。


 蜂蜜酒のバリスタを魔力五百を使って作り出す。


 一気に五百なくなるのは辛いが、一から作ろうとしたらそれ以上の手間隙がかかるのだから納得しておこう。


 ……おれの中では1魔力一万円感覚だわ……。


「ビールが30も使うととかあり得んよ」


 絶対、おれを苦しませるために神様が介入したんだぜ。


 とかの愚痴は後だ。まずは蜂蜜酒を作らんと。


 家に戻り、バリスタ置き場に設置……したいが場所がない。水、プロラジュース、清酒、蜂蜜でいっぱいか。こりゃ、家そのものをデカくせんと解決せんな。


 しょうがない。今は補給ホースを長くして対処するか。


 蜂蜜酒バリスタを床に置き、万能素材で補給ホースを作って繋いだ。


 さらに万能素材で一リットル瓶を作り、バリスタにセット。蜂蜜酒を注ぐ。


「まさに蜂蜜色した酒だな」


 おれの舌に調整されるから旨いんだろうが、この色はビールを思い出させる。あ、ビール飲みたくなった。


 味見より好みとばかりに冷蔵庫からビールを一缶取り出していただきます。かぁーうめー!


 空き缶はリサイクと、万能素材復元ボックスにポイ。これで魔力6は節約できるのだ。


「あ、あんちゃん」


 さて、次だと振り返ると、ミルテたちが復活していた。


「お、気分はどうだ?」


 まあ、びっくりして状況がわからないって顔をしてるのはわかるがよ。


「いったいなにがどうなってるの? あのしゃべる生き物や部屋の中にあるものはなんなの…?」


 性格なのか、母親として鍛えられたのか、意外と現実を見ているな、ミルテは。


「説明すると長くなるから、お前たちが落ち着いたら教えるよ。これから兄貴のところにいかないとならないからよ」


 日が沈むまでは田植えを続けるだろうから、あと一時間くらいしかない。が、このままこいつらを放置するのも些か不安があるな。


「とりあえず、今日は家の中にいろ。この中なら鬼猿の群れに攻撃されてもびくともしないからよ」


 その前に翡翠ひすいにぶっ殺されるだろうがな。


「お前たち、腹は減ってるだろう。ちょっと早いが晩飯にするか」


 あの様子ではまともに食ってはいないだろう。


「あ、米はなかったんだ。まあ、肉と漬け物でいいだろう」


 森王鹿の肉は四トンくらい取れたが、さすがの翡翠ひすいも半分くらいしか消費し切れてない。見た目だけなら毎日百キロくらい食いそうだが、意外と一食十キロしか食べない。


 まあ、毎日、五、六十キロも食えば大食感か。定期的に肉を確保せんとならんな。やっぱ大蛇を狩るしかないか。


「ちょっと待ってろ。旨い肉を食わしてやるからよ」


 肉なんて滅多に食えないだろうから薄くして、一人三枚くらい焼いてやるか。味は塩でいいだろう。


 毎日肉なので手慣れたもの。パッと作って出してやる。


「ほら、遠慮なく食え。足りなかったらもっと作ってやるからゆっくり食えよ」


 菜っ葉の漬け物と水を出してやる。いきなりプロラジュースじゃびっくりするだろうからな。


「あ、あんちゃん、肉なんて食べてもいいの?」


「つーか、しばらくは肉が続くから覚悟しろ。米や野菜の入手に失敗したんでよ」


 早く米と味噌汁が食える生活にしないとおれが先に気が狂いそうだわ。


「ほれ、食え。ハルマは肉嫌いか?」


 嫌いでも肉しかないから我慢して食えよ。


「好き! 肉なんて久しぶりだよ!」


 箸をつかみ、餓えた野獣のように食い出した。


 上品だ、マナーとかは後でもいい。ガキの頃は野獣のように腹いっぱいになるまで食え。そして、デカくなれ。


「ほら、お前たちも食え」


 女もいっぱい食って肉をつけろ。いや、ミルテは一部ついてるが、他がついていない。女はふくよかなほうが……いや、まあ、人それぞれ。健康なからだになれ、だ。


 遠慮しながらも森王鹿の肉を口に運ぶ三人を穏やかな気持ちで眺める。


 ……これが家族団らんって言うのかね……?


 今生でこんな穏やかな食事なんてなかったし、兄弟で飯食っているようなもんだが、家に誰かいるのはいいもんだな。なんか明かりが灯ったようだ。


「おじちゃん、お代わり!」


「あ、あたしも……」


 ハルマは元気に木皿を突き出し、娘は遠慮がちに木皿を差し出してきた。


「おう。いっぱい食え」


 お代わりを焼いてやり、ハルマと娘の木皿に入れ、ミルテの木皿にも入れてやる。まだ欲しそうな顔をしてたので。


「……あ、ありがとう、あんちゃん……」


 うんと頷き、これ以上見てるのも落ち着かないだろうと、蜂蜜酒を詰める作業をする。


 できたのは十八本。意外と採取してたんだな。


 兄貴のところには二本も持っていけば充分として、残りをどこに仕舞うかだな。


 これから蜂蜜酒と清酒を作っていくから置き場所はデカいほうがよいだろう。が、今からと言うわけにもいかんから、それまでは簡易保存庫に入れておくか。


 まあ、保存庫と言っても穴掘って、木の板で塞いだだけのものだけどよ。


 両指の間に挟み、六本持って外に出て、簡易保存庫に仕舞う。ちなみに万能素材で包んだ森王鹿の肉が入ってます。


「ちゃんとした保存庫を作らんとな」


 ほんと、やることいっぱいだぜ。

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