第31話 父親の気分

 筋を通そうと、サマルにミルテたちを引き取ることを話したら、「いらん! 好きにしろ!」とのことだった。


 なにをそんなに気に入らないのか不思議だが、まあ、どうしても知りたいわけでもない。好きにしろと言うなら好きにするまで。話が早くてなによりだ。


「荷物はそれだけか?」


 五分しないで戻って来たのに、三人は家の前で待っていた。


「そんなにないから」


 恥ずかしそうに答えるミルテ。まあ、自分のものなんて風呂敷一つに収まるものしかないか。前世の記憶が蘇るまではおれもそうだったしよ。


「今さらだが、ミルテの子どもは二人だけなのか?」


 何歳で嫁いだか知らんが、子どもが二人は少なすぎるだろう。若い頃は毎晩のようにやるからな。


「う、うん。二人だけ……」


 なにか言い辛そうに答えるミルテ。草食旦那だったのかな?


 まあ、子どもの前で夜の営みを語るのも恥ずかしいか。おれも妹分の営みを聞いても苦笑いしか出んしよ。


「んじゃ、いくか」


 おれの言葉に三人が頷き、南門へと向かった。


 やはりと言うかなんと言うか、門でタナ爺にからかわれはしたが、酒でなんとか許してもらい村の外へと出れた。


「どうした、ミルテ?」


 と、その娘よ。


 母親と娘がくっつき合い、身を強張らせていた。


「……む、村から出るの初めてだから……」


 あ、ああ。そうだな。村の中でしか生きて来なかった者には外は恐怖でしかないか。


 逆に外を知っている者としては、あんな狭いところに何十年もいて気が狂わないのかと思う。


「安心しろ、とまではいかないが、獣鬼や狼は滅多に現れたりしないから。まあ、黒走りと言った魔蟲系は現れるがな」


 あいつら恐怖がないのか、ただ単に脳ミソが少ないのか、狛犬がいようと平気で近づいて来るのだ。


「……あんちゃん……」


 おれのセリフになに一つ安心できる内容がなかったようで、怖さを倍増させてしまったようだ。


「現れたらおれが美味しくいただくから心配すんな。あいつらは金の蟲だからな」


「金の蟲?」


 不思議そうに首を傾げる親子。ふふ。仕草がよく似てんな。


「黒走りは、脚爪が六本で銅銭一枚。魔石は銅銭五枚。上手く糸が取れれば一巻き銀銭一枚となる。つまり、黒走り一匹狩れば町で二十日は暮らせるんだよ」


 まあ、おれのザックリとした計算だが、おれのところに持って来たらその値段で買おうじゃないか


「おじちゃん! おれにも黒走り狩れるか?」


 なにかに火がついたようにミルテの息子──ハルマが声を上げた。


「ハルマ! なに言ってるの! 危険でしょう!」


 まあ、当然の反応を示すミルテ。


「危険でも金になるならおれはやりたい! 母ちゃんや姉ちゃんを楽にさせてやりたいだよ!」


 おーおー。小さくても男じゃないか。将来モテるタイプだわ。


「おじちゃん! おれに黒走りの狩り方を教えてくれ! いっぱい狩るからさ!」


 ミルテに目を向けると、不安そうにおれを見ていた。


 ……あの頃の面影は残っていても、もう母親なんだな……。


「やる気があるなら教えてやる」


「やったぁー!」


「話は最後まで聞け!」


 ハルマの頭をアイアンクローして静めさせる。


「まずは山の歩き方、武器の使い方、獲物の狩り方、捌き方を学んでもらう。おれの指示を聞かず、先走って怪我でもしたら一生風呂炊きをやらすからな。飯も一日一食だ。わかったな?」


 少し、威圧してハルマに言った。


「……わ、わかった。おじちゃんの言うことを聞くよ……」


 フフ。さすが一人で村の外に出るだけはある。


「ああ。ちゃんと指示に従えるのなら毎日旨いものを食わせてやるし、金も出す。一人前になったらハルマ専用の武器や防具をくれてやるよ」


 こいつは間違いなく戦力になる。それに、このくらいの歳から教えたら銃や車の扱いも一流になる。あ、他から子ども集めて部隊を創るのもいいかも。うん、夢は広がるぜ。


 ハルマの頭をわしわししてやる。


 親の、いや、父親の愛情に飢えているんだろう。なんとも嬉しそうに笑うハルマ。なんか父親になった気分だよ。

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