第22話 駆逐
万能センサー発動! により、雑木の中にいるのは十歳前後の男の子だとわかった。
金属反応がないことからして、やはり素手で雑技を折っているのだろう。なんとも山をナメている。
なんて思いはするが、鉈やナイフを持てる子どもはそうはいない。おれですら鉈を持つのが精一杯なのだ、子どもに持てるわけがない。
ちなみに、なぜ傭兵をやっていたおれが剣や鎧がないかと言うと、生きるために売りました。生活基盤を整えるには先立つものが必要なんだよ! 傭兵の稼ぎなんて飲む食う買うでなくなんだよ!
雑木の中にいる子どもは、まだ
「……おじちゃん……」
不安そうな声を出すカナハ。
「心配ない。黒走りごときおれの敵じゃないよ」
あの大きさに最初はビビるが、慣れたらそれほどの魔物ではないとわかる。一匹ならカナハでも倒せるだろう。
地面に落ちている石を拾い、黒走りに軽く当ててやる。
単純な思考しかできないのか、攻撃されると簡単に標的を変えて襲って来るのだ。
一人が囮になり、複数で弓矢で狙えば簡単。チョロイ相手である。
まあ、一人でもそう難しくはない。傭兵時代、黒走りの巣駆除はよく受けたものだ。
カナハを背後に飛びかかって来る黒走りを一刀両断。こいつら脚は堅いが、腹は柔らかい。それこそナマクラでも簡単に斬れるくらいだ。
恐怖をどこかに捨てた黒走りは、仲間が何匹死のうが襲い来るのを止めない。順番に来るのを斬っていけば一分で終了。チョロイもんである。
「……おじちゃん、スゴい……」
「黒走り六匹では自慢にもならんよ」
百匹でも倒したら自慢にもなるが、六匹では準備体操にもならんわ。
「カナハ。これで黒走りの爪を切れ。鏃になるから」
鉄の鏃には劣るが、赤毛鹿や鬼猿を狩るには黒走りの爪で十二分。六個(脚は八本だが、鏃にできるのは六本なのだ)で銅銭一枚になるのだ。
まあ、それはオマケ。カナハの小遣いにしてやろうと思っただけ。本命は魔石だ。
黒走りを魔物と言ったように、その体には魔石を宿す。
今さらだけど、魔石があるのを魔物と呼びます。ないのは獣です。
まあ、弱い魔物なので爪先より小さい魔石だが、秘めたる魔力は40もあるのだ。
蜘蛛のクセにこんなにありやがってと文句も言いたいところだが、今のおれにそんなことを言っている余裕はない。感謝を込めていただきます、だ。
「銅銭一枚にもならんと捨てていた時代のおれを殴りてーよ」
駆使人数で報酬に違いはあるが、大体、銀銭二十枚はもらえる。
円で言えば二十万円くらいだろうか? 前世の感覚なら少ないように思うが、今生では百万円くらい稼いだ感覚だ。物価が安いからな。
武器や防具の修繕費を抜いても三月は暮らしに困らない。まあ、蝶を取りにいったら一月も持たないがよ。
「しかも、なにも知らなかったんだからクソだぜ」
あの頃は報酬のよさに目が眩んで周りのことに目を向けることができなかったが、こうして前世の記憶が蘇ってわかる。
村から騙されてたんだってな。いや、そこに頭が回らない傭兵がバカってだけか。
黒走りの爪が鏃になることも、魔石が取れることも知っていた。だが、巣駆使優先と言われ、それを鵜呑みにしていた。その裏で村の連中が死骸を集め、爪と魔石を取っているとも知らずに、な。
まあ、村の者から死活問題。駆り出され、散らばった死骸を集め、雑に殺されたものを捌かなくちゃならん。不平不満で爆発しそうだろうが、村長としてはウハウハだろうよ。爪と魔石で傭兵に払う報酬の半分は回収できるのだからな。
そんな仕組みに気がつかず、稼げたと喜んでんだからおめでたい話である。まあ、そんな世の仕組みを知ってたら傭兵なんかしてないか。
「……世の中、賢いヤツが得をする、か……」
自分で言っておいて理不尽と感じるんだから勝手だよな。ハハ。
だが、知ったからには騙されてやる義理はない。食い物にするなら逆に食い物にしてやるわ!
なんてのは悪手。そう言うのは食い物にするんでなく利用するのが賢い生き方だ。前世と今生のおれをナメんなよ、だぜ!
取り出した魔石のサイズはバラバラなら魔力量もバラバラ。だが、合わせて263。満足の量である。
「おじちゃん。切り取ったよ」
「ご苦労さん。手間賃として蜂蜜やるからな」
「こんなことで蜂蜜もらえるの!?」
驚くカナハ。タダ働きが身に染みてるのが泣けてくるぜ。
「正当な仕事には正当な報酬を。おれのところで働くならそれが決まりだ」
前世では真っ当な会社で働いていたから仕事に恨み辛みはないが、今生にはありまくる。よくあんなはした金で働かせてくれたなと恨み辛みしかない。
前世の記憶が蘇ったからには仕返しさせてもらう。金や物をばら蒔いて、家畜同然に働かせたヤツらを駆逐してやるわ!
でも、その前に、雑木から出て来た少年にガツンと言ってやらんとな。
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