第21話 黒走り
準備が整ったので村へと出発する。
おれが住むところは村の外で、人が住むような場所ではないため、村に続く道は獣道よりちょっとマシな程度。知らない者には不安でしかないだろうよ。
そんな道をカナハはヒョイヒョイと歩いている。草履なのに……。
おれも通い慣れた道だし、草履で歩くことに支障はない。が、急に戦いになったらと考えると不安でしかない。たまに狼が出るからな。
ってか、護身用の鉈を持って来るの忘れてたわ。
万能変身能力のお陰で油断しまくりだな。いや、油断したところで狼どころか狛犬が現れてもなんとかなる様になってますがね!
とは言え、丸腰なのも問題か。狼も鬼猿も武器の有り無しがわかるくらいには知恵はある。ハッタリでも武装しているのが命を繋ぐ知恵である。
まずは靴──いや、ブーツにするか。守りは足下からって言うし。
歩きながら万能素材でブーツを作る。
作務衣のような格好にブーツってのもなんだが、見た目より性能だと、今は目を瞑ろう。
……後々、服もそれらしいものに変えんとな……。
「うん、いい感じだ」
おれの足にぴったり合い、衝撃吸収機能もついているからとても歩きやすい。やっぱり靴がいいわ~。
しっかりと大地をつかむブーツの感触を確かめながら右手から刃渡り六十センチの黒いブレードを作り出す。
青竜刀の様な剣は兵士の剣で、一般人となったおれには相応しくないし、兵士に思われても困る。
長さも兵士の剣よりは短く、鉈よりは長い。でも、山で使うには便利なのが大体六十センチなのだ。
腰ベルトに鞘も作り、ブレードを鞘に収める──ってか、背負子に当たって歩き難い。失敗だわ。
しょうがないので腰ベルトから外し、左手で持つことにする。
「……前は気にならなかったが、結構雑木が多いな……」
道を塞ぐ様な枝や倒木があったりする。よくこんな道を通ってたもんだわ、おれ。
ついでだからとブレードで雑木を払いながら進むことにする。ブレード、切れ味最高~!
「ん?」
村までもうちょいのところで、視界の隅になにか動くものを捉えた。
「カナハ、止まれ」
背負い籠をつかみ、停止させる。
「おじちゃん?」
「しゃがんで動くな。声も出すな」
そう指示を出してブレードを鞘から抜く。
約四十メートル先の雑木が不自然に動いている。
狼ではない。動いているのは一ヶ所。群れで行動する狼なら他にも動きはあるはず。なにより、存在を示すとか、狼失格である。
まあ、それが囮と言うこともあるが、今生のおれは兵士と傭兵を経験している。勘も鋭くなっている。
これは、狼の襲撃ではない。獣や魔物の気配でもない。人の気配だと理解した。
山賊か? と思ったが、すぐに違うと否定する。
山賊に落ちるような屑は、兵士にも傭兵にもなれない落ちこぼれ。身体能力の低いヤツだ。
まあ、たまに強いヤツもいるが、そう言うヤツは殺気を押さえるのが下手で、集団行動ができない。こんな気配を薄くすることはまずないのだ。
「……子どもか……?」
花崎胡はなざきこの近辺におれが住むからか、他のところよりは狼や魔物の出現率は低い。よく来るカナハも狼を二、三度見たくらいだ。
それでよく生きてるなと、思う方もいらっしゃるだろう。実際、言われたこともあるそうだ。
まあ、安全な村に住んでたら、わざわざ危険なところに近づかないようにする心理が働くかも知れないが、傭兵はその危険な場所へ向かわなくちゃならない。
傭兵もバカではやっていけない。腕っぷしだけで渡っていけるほど甘くはないのだ。
おれの家と村を繋ぐ道には、狼が嫌う臭いを木にくくりつけたり、武器となる木の槍を三十メートル毎に設置したり、木の上に逃げれるようにロープなども垂れ下げてもいる。
カナハにも護身用として辛味玉をいくつか持たせて、常に用心する精神や槍の扱いも教えてあるから、大抵のことからは生き残れるだろう。
しかし、なんの知恵もなく技術もない子どもにとって、この森はただ危険でしかない。狼は出なくても毒蛇は出るし、一メートルくらいの鼬いたちに似た狂暴な獣も出る。陸亀サイズの肉食蜘蛛もいる。
六級の傭兵なら敵ではないが、子どもには戦うどころか逃げるのも困難だろうよ。
パキ、パキと言う音からして雑木を折っているようだ。
「なにしてんだ?」
危険な場所で雑木を折る意味がわからない。
「……もしかすると、竈で使う枝を集めてるんだと思う」
と、おれの呟きにカナハが小さな声で答えた。
「薪代を節約するために山に入る子がいるから」
「どんな命知らずだよ」
この世界の山や森をナメたら怪我するどころか死ぬぞ。そのために結界を施した村があるんだからな。
「農作業が楽になったけど、米のできが増えたわけじゃないから、家族が多いところは一番削りやすい薪代を削ってるんだよ。あたしも何度かやったことあるし」
人余りは聞いていたが、そんなことになってたとは知らなかった。
「薪代が節約できて、万が一、襲われても口減らしになる、か」
酷いと言うことなかれ。この世界、娘も売れば年老いた親でも捨てたりする。それがまかり通る世界なのだ。
あんなに雑木を揺らしてたら狙ってくださいと言ってるものだろう。
なんて心配してるそばから肉食蜘蛛──黒走くろばしりが六匹、獲物と見て近づいて来るのがわかった。
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