第18話 魔法士
なんでやねん!
な気持ちでいっぱいだが、それは後回し。今は現実を見ろ、である。
カナハの魔力が62。紛れもなく62。おれは万能さんを疑ったりはしない。だからおれはこの真実を受け止める!
よし。受け止めたからには次へといこう。
正直、魔力があるとわかる前は奉公に出るのもやむなしと思っていた。
自分一人生かすのが精一杯なおれにどうこうしてやれる力はないし、これから一生面倒見るなんてことはできない。いくら姪っ子が可愛いからと言って、できることとできないことがあるのだ。
カナハを引き取ったら、他の姪や甥も引き受けなくちゃ不公平が出る。田舎じゃこの不公平が厄介なのだからな。
面倒を見るからには利がなくちゃならない。理由がなくちゃならない。建前でもいいから作らなくちゃならないのだ。
魔力。それはおれがもっとも欲するもの。得られるのならいくらでも金を出し──いや、金はないからいくらでも物で払おう。万能さんなら大概のものは作り出せるからな。
とまあ、それは追々として、今はカナハのことからだ。
魔力62。おれよりはあるが、人の域では低い。翡翠ひすいは軽く三千を超えているのだからな。
だが、何事もされど、だ。
62もあれば家事全般はできるし、人は休んだり食事をすれば体力と同じく魔力も回復する。訓練すれば伸びもする。
カナハはまだ若いから伸び代はおっさんのおれよりあるはずだ。
まあ、家事をやるほどの家ではないので、作り出した魔道具に魔力を供給してもらったり、魔力貯めに励んでもらうがな。
「カナハ。お前、おれんところで働く気はあるか?」
「おじちゃん?」
なにを問われたかわからず、首を傾げた。
「お前には魔力がある。まあ、魔術士ほどではないが、魔術士になれるかも、って程度にはある」
「あたし、魔術士になれるの!?」
「落ち着け」
バシャンとお湯とともに飛び出して来たカナハを押さ、湯に戻した。
「魔術士なんてそう簡単にはなれんよ。それこそ物覚えつく頃から文字や計算を学び、師の下で毎日修行しなくちゃならない。しかも、魔術士のほとんどは位の高い者ばかりだ。農民のお前が魔術士になるなんて奇跡でしかないだろうよ」
農民から魔術士になった者はいる。だがそれは、魔力の高さを買われてのこと。なったからと言って農民上がりとバカにされる毎日だそうだ。
「…………」
落ち込むカナハの頭に手を乗せ、ゆらゆらと頭を揺らしてやる。
「お前にいい言葉を教えてやろう。魔術士になれないのなら魔法士になればいいじゃない、ってな」
キョトンとするカナハにウインクする。
「まあ、魔法士はおれが作った言葉だが、魔術よりいろんなことができるのが魔法だ。この風呂だって、服を洗濯したのも魔法だ。簡単な火だって魔術ってよりは魔法に近いものだからな」
明確な違いなんておれにもわからん。魔術より魔法のほうが難しいことができるって感じでしか取ってないよ。
「魔力の使い方、魔法の学び方、いろいろ苦労はあるが、奉公にいくよりはマシだ。いや、苦労するだけの飯や賃金はくれてやる。頑張れば毎日風呂にも入れるし、いい服も着れる。自分だけの部屋だってもてるようになるぜ」
また衣食住を与えてやらんとならんが、魔力供給以外、使い道のない翡翠ひすいよりはマシだ。カナハは料理も洗濯も掃除もできるからな。
「……あたし、なれるの……?」
「なれるなれないじゃない。お前がやるかやらないかだ」
おじちゃんとなんか嫌! とか言われたら軽く死ねるけどな。姪や甥には好かれたいもの。それがおじちゃんって生き物だ。
「やる! あたし、魔法士になりたい!」
またお湯とともに飛び出してこうようとするカナハを押さえ、湯に戻した。ちょっとは学習しなさい。
「カナハが望めばなりたいものになれるさ」
まだ十六歳。夢を得るのはこれからだ。
「あ、でも、おとうちゃんが許してくれるかな?」
奉公にいくとき金をもらう。金で子を売り、金で自由を縛る。クソッたれな世界でそれがまかり通るなら利用してやるまでだ。
「許すように持っていくさ。もうお前はおれの弟子なんだからな」
万事おれに任されよ。
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