第13話 魔道具

 前世の記憶が蘇ったからなのか、今まで感じなかったのに、美味しそうにプラロジュースを飲むカナハがなんとも幼く見えた。


 なぜか知らんがこの国の人々は前世の日本人に似ており、黒髪黒目の東洋人的な姿をしている。


 まあ、ファンタジーな世界だけあってピンクの髪や緑色の髪をした者もたまには見るが、基本、黒髪黒目の東洋人タイプ。なので、大体の者は年齢より若く見える。


 カナハも十六歳ながら十四歳にしか見えないし、おれもくたびれてはいるが、三十前に見える。


 ……前世なら喜んだが、ファンタジーは見た目が重要。強そうに見えないとモテないのだ……。


 身長178センチ。体重72キロ。前世なら充分な細マッチョなのに、今生ではナヨナヨしたふうに見えるらしい。ゴリマッチョがモテる世とか滅びればいいと思う。


 ……まあ、幼顔で体がゴリマッチョってのも嫌だけどよ……。


「おじちゃん、これプロラだよね?」


「よくわかったな。プロラって」


「この酸っぱさならわかるよ」


 春に生る、小梅くらいのサイズでタダ酸っぱい果物で、この辺では大量に実るのだが、煮ても熟しても酸っぱいと来て、村の連中は滅多に食べたりしない。


 おれもガキの頃、度胸試しで食った以来、三十年ぶりに食ったほどだ。


 そんなものがジュースに? と疑問に思うだろうが、万能さんにかかればプロラなど敵ではない。


 各種材料入れてボタンを押すだけ。それで万能さんが美味しく仕上げてくれる。ただ、おれの舌基準なのはご愛敬です。


 採取ドローンさまに寄ると、砂糖となる野菜はなかったが、蜂の巣は結構あるようで、五リットルタンク六つ分も集めて来た。


 他にも薬草やら果物、食料となる植物に薬剤となる植物と、いろいろ集めて来てくれ、万能さんによる成分分析と試行錯誤でプロラジュースが完成したのです。


 ……これでビールになる原料があれば裸になって喜んだのにな……。


「なんでプロラがこんなに甘くなってるの? 普通に──ううん。美味しく飲めるなんて」


 もっともな質問ありがとう。


「この魔道具のお陰さ」


 三十年前くらいから魔道具が大量に大陸から流れて来ており、チャッ○マンみたいなのは一家に一台あったりする。村長の家にはコンロと冷蔵庫があると聞いたことがあるな。


「魔道具って、かなり高価なものじゃないの? それに、あんな大きい冷蔵庫やコンロまであるなんて……」


 こんな田舎じゃまず見ないもの。だが、それらしい設定は考えてありますからご安心を。


「昔、知り合った大陸の貴族が来てな、あの狛犬を預かってもらう礼に魔道具をくれたんだよ。まあ、ほとんどが狛犬のための魔道具だがよ」


 どうよ、この設定は? 完璧じゃね?


「なんでおじちゃんのとこれに預けるのよ? こんな魔道具を持つ貴族なら狛犬くらい面倒見れるじゃない」


 おっと。そりゃごもっともですな! さすがカナハさん。素直に騙されてくれませんか。


 だが、こちらも無駄に生きてはいない。このくらいで動揺などしませんがな。


「いいか、カナハ。高貴な方の考えなんて下々にはわからんものだし、あまり深く追及するもんじゃない。下手に知って殺されたなんて話はいくらでもあるからな」


 触らぬ神に祟りなし。下々は下々らしく生きねばならんのだ。どんな理不尽を言われようがな。


「…………」


 納得できないって顔をするカナハだが、お上の理不尽は子どもでも知っていること。農民に人権などないんだからな。


 ……まあ、お上にも真っ当なヤツはいるが、アホなヤツのほうが多いんだよ。こんな時代じゃな……。


「ここは、村から離れているし、来るのはお前くらいだしな。隠れて飼うのに適してんだよ。村のもんには言うなよ。騒がられるのも面倒だしよ」


 前世同様、田舎は信心深い者が多い上に、日常が乱れるのを嫌う。騒がれて村を出ていけと言われるのも嫌だからな。


「おじちゃんがそう言うなら黙ってるけど、村長さんには言っておいたほうがいいんじゃない? 村の人らが滅多に来ないって言っても田んぼの水は花崎湖から引き込んでいるから絶対に来ないとは言い切れないよ」


 それは確かにそうだな。


 水路の点検やら花崎湖の様子を見に来る場合もある。こうして何日も村に下りなければ不振がられたりもする。話を通しておくのは必要か。


 とは言え、受け入れられないときのことも考えておかんとな。村に利がないと思われたらお上に告げ口されかねないしよ。


「それはもうちょっと落ち着いてからだな。村長や村の連中を説き伏せる利を用意しなくちゃならんし」


 田んぼへの水入れは始まってるし、花崎湖の水量も問題はない。余程天候が荒れなければ大丈夫だろう。


「まずは兄貴からだな。兄貴は田んぼか?」


「うん。田植えは始まったから」


 なら、なんでカナハはここに来れるの? と疑問に思われる方もいらっしゃるだろう。おれが子ども時代は手植えで、強制的に田植えを手伝わされたが、数年前に田植えができる魔道具が入って来たのだ。


 もちろん、一家に一台なんて無理。金番二百枚ーー前世の円に変えればたぶん五百万円くらいだろ。まず田舎の農民に買える値段ではない。


 だが、村の財産とすれば、なんとか三台は買えるのだ。


 こちらの田植えの魔道具は優秀で、魔力を維持していれば泥にもつよく、壊れ難い。使わないときは専用箱(これも魔道具ね)に入れておけば五十年は持つと言う。


 実際、村が導入して十年以上壊れ知らず。点検に一度出したくらいで今も大活躍している。


 しかも、何百年前の天帝さまが国中の田んぼを正方形にしたので、この村なら五日もあれば田植えは終わってしまい、人手はそんなにかからないのだ。


 その分、最近では人余り問題が出ているそうだがな。


「んじゃ、今日にでもいくか。義姉さんはいるんだろう?」


 自分ちの田んぼを田植えするんじゃなければうちにいて内職しているのが今の農家の嫁だ。


「うん、いるよ」


 なら、今は……昼か。なら、飯食ったらいくとしますかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る