第11話 翡翠(ひすい)
今日も朝からトンテンカン。トンカチにカンナにノコギリ作り。おれはいったいなにをしてんだろうな?
なんか目的を忘れた今日この頃。皆様はどうお過ごしですか? おれはもう人生に疲れました。
………………。
…………。
……。
「やってられるか!」
近くにあったバケツを蹴り上げた。
「なにをしておるのだ、
おれにもわかんねーよ! なにやってんだ、おれはよ!?
ウガーと叫んで大の字に倒れる。
「……空が青い……」
「よい天気でなによりだ」
横に目を向けるとホヤ~ンとする狛犬。じゃなくて、
狛犬界でも名前をつけるようで、狛犬って呼んでたら「我は
「すっかり飼い犬になりやがって。お前の野性はどこにいった?」
毎日食っちゃ寝の繰り返し。おれより快適に暮らしてやがるのだ。
「敵に怯えることなく穏やかに過ごせるなら喜んで飼い犬になろう。あ、腹が減った。森王鹿のミンチをくれ、ご主人様よ」
悪い顔……をたぶんしている翡翠ひすいに舌打ちして、家の中へと入った。
なにを目的にしていたか忘れていたが、冷蔵庫を前に思い出した。おれ、生活を快適にしようと頑張ってたんじゃねーかよ! どこで忘れた!
「快適にしようとして過酷な毎日を送ってたとか、笑い話にもならんわ」
とは言え、ないない尽くしのカントリーライフ。快適にしようとしたら道具は必須。それを作る道具の道具を作らなくちゃならない。一から始めるこの苦労。そのために願った万能変身能力は魔力次第。なにをやるにも魔力(燃料)が必要なのだ。
もちろん、
この万能さん、万能ではあるんだけど燃費が悪い。とにかく悪い。メッチャ悪過ぎる。たぶん、神さまによる介入が原因だろうが、ちょっと厳しくね? 三十六年も記憶を封じられた上に万能さんまでとか、鬼畜過ぎるてしょう。おれ、穏やかに平和を愛する凡人ですよ。もうちょっと優しくしてくださいよ、神さまぁ~。
なんて殊勝な人間ではないので、こっちの神様になんて頼りません。能力をくれた前の世界の神様に祈ります。
「この幸せに感謝です、神様」
冷蔵庫から缶ビールを出してプシュとな。
ゴクゴクゴクゴクン。ぷしゃー! ビールうめー! これで三年は戦えるぜ! あ、いや、ウソです。調子こきました。夜までが精一杯です。ごめんなさい。
「あーあ。ビール一缶作るのにドローンと同じだけの魔力を消費するとか意味わからんわ」
材料があれば魔力消費は押さえられるのだが、この辺で大麦やポップを栽培しているところなんかないし、そもそも米文化の国。余程都会じゃなければ小麦も売ってねーよ。畜生がっ!
「せめてエール文化圏に転生したかったぜ」
米はあるから日本酒は作り放題なんだが、生憎とおれはビール派。日本酒はそんなに好きじゃないんだよ。
「つーか、その米がねーや」
最近は肉食生活だったので村に買い出しにもいってなかったわ。それに、タバコも切れかかってたっけ。
「明日あたり村にいくか」
道具作りで忘れてたが、漁もしてなかったわ。
「まさか狛犬が魚も食うとは知らなかったぜ」
翡翠ひすいによると、基本、狛犬は肉食なんだが、中には魚や野菜を好む者がいるとか。翡翠ひすいの親が魚好きだったらしく、その影響でたまに食いたくなるそうだ。
燻製にしたものは食われてしまったので、今日は漁に出るか。おれも久しぶりに魚が食いたくなったしよ。
「主よ、まだか?」
開け放たれた戸から
クソ。こいつと従魔契約したの失敗だったぜ。
とは言え、今さらなので大人しく冷蔵庫から森王鹿のブロックを出してミンチにする。
「細かく頼むぞ」
飼い犬の分際でご主人様に命令してんじゃねー! と言えたらどんなに楽か。食生活がよくなったことで魔力回復が高まり、半分もらっても元気とあいなったわけですからね……。
「あ、塩を少々入れるのを忘れるでないぞ」
クソ。犬の分際で味つけとか、塩分高で死んでしまえ。
怨念五。塩二を入れてミンチを揉む。死ぬほど旨くなりやがれ!
「あ、ミンチと味噌を混ぜたら肉味噌になるな!」
なんか突然閃いた。
「肉味噌か。砂糖が欲しいところだが、贅沢は言ってられんか」
砂糖は大陸から輸入されており、高くはあるがちょっとした町なら売っている。なくても甜菜に似たものから砂糖は作れる。万能さんがいてくれれば簡単なものよ。
「あ、そうなると味噌も仕入れんとならんか。金が減るな」
いや、金は惜しむな魔力を惜しめだ。
なに、金なんぞどうとでも増やせる。魔力を貯めることを思えば簡単なことよ。
なんて皮算用してたら外から悲鳴が。なんだいったい!?
慌てて外に飛び出した。
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