俱(とも)に纏(まと)いし、纏われし ― 〔新たなる一歩〕―
緋村 真実
序ノ幕 ―― 緞帳前譚
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其処は、一般の人間には決して立ち入る事が許されぬ場所。いや、知られてはいけない区域。そこは国が管理する場所の最奥にして最深部。いくつものセキュリティが施された特別な一室が存在する。立ち入る事が
そんな厳重であり異質な部屋に、この国の最高権力者たる国王と女王、そして一人の従者が訪れていた。
しかし、そんな厳重な場所ながら、室内はいたってシンプル。だが、逆にそれがこの部屋の異質さを物語る。
室内の大きさは一般の一人暮らしの部屋程度。けれど其処には一つの慰霊碑だけが鎮座しているのみ。それ以外は一切ないゆえに、その慰霊碑は特別な存在感を放っていた。
其処に刻まれた名前は、この場所を訪れることが出来る者だけが知る名前。逆に言い換えれば、誰も知っていない、とも言っても過言ではないともいえる哀しき名前。
従者は一歩下がり、国王夫妻の背中を眺める事しかできない。
国王が一歩前に出て、片ひざを折り畳み床につき、其処に刻まれている名前をそっと撫でる。その表情は固く、口は真一文字に結ばれ、何かを耐え忍んでいるようにも見える。女王は、そんな国王を形容し難い表情で見つめ、その手に持った小さい花束を慰霊碑に添える。
「
国王の声は何かに耐え忍ぶように抑揚のなく、それでいて哀愁を含んでいた。そして、覚悟を秘めていることも。
「……だが、再び忌まわしき刻が巡って来てしまった。本当に、時間とは残酷なものだ。けれどお前たちが存在した証をなかった事にはさせぬ。お前たちが守ってくれた時間で、次の世代は着実に見つけ育ている。ゆえに約束する。次は決して喪わさせないし、此処にも刻ませさせん」
国王はうっ血するほどこぶしを握りこめ、確固たる意志を慰霊碑に向かって伝える。
しばしの後、国王は立ち上がり背を翻して慰霊碑に背を向け、今まで自分の背中を見ていた女王と従者に向き直る。それを受け、二人も向き直り出口へと歩き出す。悲壮と覚悟をその背中に秘めて。
そして、部屋のドアが閉まる前、国王が肩越しに言葉を発する。
「吉報を待っていてくれ。必ず、
その言葉が最後。国王の言葉の残響を残し、この部屋のドアはいくつものセキュリティの基に厳重にロックされた。
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