第19話 アパート

お茶はもう賞味期限切れのティーパック。

なんかのおまけについてきたやつ。

フネには秘密で何食わぬ顔で「どうぞ」とお出しする。

フネはカップを手に取る前に「なんだいこれは」とひとこと。ギクッ、、バレたか。と思い首をすくめようとする私に「こんなカップでお茶を出すなんて、おまえさんはなんだい、その茶碗は?」と呆れている。

私は口を尖らし「すんませんねー、だってさ、家に誰も来ないし、私ひとりでだったら、マグカップでコーヒーだって紅茶だってお茶だってそれで充分なんだもん」と答える。

「なんだって? この部屋には誰も来た事が無いのかい? まさか、ほんとに友達もいないのかい?」

「いない。ほしいと思った事もない」

マグカップを手に取り、ゆっくりお茶を飲み「…。人に入れてもらうお茶っていうのは美味しいね…」と、話しをそらしたのはフネだった。美味しいなら良かった…。私も味の薄いきれいな緑色の湯を飲んだ。


「このアパートはずいぶん古いね」

「そう、、かな。でも住みやすいよ。私は気に入っている」

「あらそう? 本来お姫様なんじゃなかったのかい?」

「ぶ。」私はお茶を吹き出しそうになった。

フネの口からそれを聞くと、にわかにバカバカしい話しに聞こえる。

「いや、とっくに気づいてる。それは現実逃避だって」うつむく私にフネは

「それはそうと、アンタ35だろう? これからこのアパートにあと何年住むつもりなのさ」「ここに居られるなら一生居たいわよ。ここの大家さんとても良い人でね、更新料も取らないし、家賃の値上げもないの」「へ〜、そりゃ良い大家さんだこと。奇特な人もいるもんだね」

何故かフネは困ったように斜め上を見上げあた。

その後、それにしても生活感が無いやら、物が少なすぎて心細いやら、これじゃ友達どころか下心で近づく男も現れないやら、言いたい放題言って「雨が止んだだろう、そろそろ帰るよ」と言うのでまだ乾いていないフネの服はビニール袋に入れて車椅子にバスタオルを敷いてフネを座らる準備をした。

フネが「アンタ、あたしがこの服を借りて帰ったら、アンタが着る服が無くなるんじゃないの?」と。本気で心配している。

「大丈夫。なんとかなるよ。出かける予定も無いし、今ならフネさんに借りたグッチもあるし」と言うと「それは返さなくていいよ」と言う「いや、クリーニングして返さなきゃと思って…」と言うと遮るように「お金に困ってるっていうのに、アンタは馬鹿だねっ、たった一度着ただけの服をクリーニングに出していくらかかるんだい? 今日、アンタにご馳走になったハンバーガーだってね、、。」まあいいや。みなまで言うまいと黙ったフネだったが、がさごそとポーチを探った後で「買い取りだよ」と私に3万円を渡してきた。「なんの?なんの買い取り?」と聞くと「この服さ。アンタはそれで新しいのを買いな。この服はもう私のもんだ」と言いきった。「え? そんな服を? それって…多分全部で三千円にもならないよ?」「え?三千円?? それなら私の服の袖にもならないじゃないか!?」フネが驚いて目を丸くしたのがおかしくて私は笑った。

笑ったら気持ちが楽になり、「フネさん、じゃあ、今回はフネさんを騙して私の服を売る事にします!」と元気に答えて、3万円を両手で揃えて持ち、頭を下げた。


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