第16話 デート

「駅前まで出かけるなんて久しぶりだねー」

「私も、誰かと歩くなんて久しぶり」

「アンタはさ、友達とかいないのかい?」

「…。いない」

「ふ〜ん。 まあ、私もいなかったけどね」

「ていうか、友達とかほしいと思ったことなかった」

「そうかい。変わってるね」

「そう。私、多分変わってるんです。だから、あんまり人と合わない…。人と合わないと疲れる。相手も疲れるだろうから。一人でいるのがらくなんです。」

「なんだいきゅうに敬語で。アンタは変わってるよ。そういう事は隠しておくもんだ」

「いつもは隠してます」

「今はいつもじゃないんだね?」

「ぜんぜんいつもじゃない。だって、フネさんと出かけてるし、フネさんとだと、あの、なんていうか、、いろいろ話してみたくなる…んです」

「アハハ。そういうのはね、気が合うって言うんだよ」


嬉しい。

誰かに気が合うなんて言われたこと無かった。お母さんとも、お姉ちゃんとも、気が合うなんて思った事もない。


フネの車椅子を押しながらゆっくり歩くリズムが心地よい。


駅前のマックは土曜日のせいか混んでいた。子供や家族連れも多く、車椅子は場所をとった。けれど、周りの人は皆、親切だった。

道を開けてくれたし、席も譲ってくれた。

「ありがとうございます。」

フネを乗せた車椅子が、私と社会の間に入ってくれると、不思議な事に私は優しい人間で、役に立つ人間になった気がする。

フネを守らなきゃという責任みたいなものも感じた。

フネを席に残し注文に並ぶ時も、一人にしたフネがどうしているのかと気になった。

チーズバーガーとポテトとジンジャーエールを二人分トレーに乗せて運ぶ。お手拭きと紙ナフキンも持って行こう。

「お待たせ」と席につくとフネが「いくらだい?」と財布を出そうとしたので「いい、いい、今日は私が出す」と返事をする。

「…。そうかい?じゃあご馳走になります」とフネが頭を下げた。

フネの向かい側に座り「これで手を拭いて」

「手が汚れないように、こうやって持って」「これ使ってね」と世話を焼くのが楽しかった。フネも私の言う通りに食べて「柔らかくて美味しい」と笑顔を見せる。

なんだこれ。すごい幸せ。


「この年になると、一人でこんなところには来れなくなるんだ。アンタも若いうちにせいぜい今できる事をやっといた方がいいよ」

「はぁ…。今、幸せってやつに浸っていたのに」ため息混じりに返事をするとフネが聞いてきた。

「アンタ、今後どうやって生きていくのさ」

「…。仕事も無いし、お金も無くて、どうやって生きていけばいいかわかんない…」冷めたポテトが喉を引っ掻いて落ちて行った。

もう! フネさんが、今私の心を天国から地獄に突き落としたんだからね! と言いたいがそれは八つ当たり。黙って氷が溶けて薄くなったジンジャーエールを飲み干した。

そんな私をフネは無表情で対岸から眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る