第13話 グッチを着たわたし
「あんたには、結局、その地味なやつが似合うよ」とフネが言う。
「アハハ。私もそう思う」
グッチの半袖のワンピースを着たおかっぱ頭の私が鏡に映っている。
「さて。もういい時間だろう。今日はここまで」
「あ! ごめんなさい。仕事中だったのを忘れてた。」
「いいんだよ。これも立派な仕事だ。私は久しぶりに楽しかったよ。女はいくつになっても好きなんだね。衣装ってもんが。」
「私も夢みたいな時間だった。こんなブランド物を着れるなんて。一生無いと思ってた」
「そんなもんかね。 まあ、いいや。アンタ、このままでは帰れないよ。この後の分はサービス残業だからね」
「はいはい。もちろん」
「私を下まで降ろしておくれ」
私は、フネの動かない右足の支えとなってフネが怖くないようにフネの斜め前に後ろ向きでフネの両足を揃えながら、一段一段、足を揃えながら降りて行った。
リビングのソファに座ったフネは、やれやれというように手帳を出してまた8-16(1)と書いて私に封筒に入った1万円を渡してくれた。
そして「土日は休みでいいからね」と言う。
「今日は金曜日。若者らしく、どっかに遊びに行ってらっしゃいな。その服のまま」
「え〜 いいの? この服着て?」
って、私はどこにも行くところがないし、会う友達もいない。
でも、、許されるなら、、この服を着て、、外を歩いてみたい。
「いいとも。靴もバッグもハンカチも揃えてお行き」
「ぇ? あ、いい、いい。こんだけでいい」
そんな全身ブランドで身を固めたヤツなんて逆に趣味が悪い。ていうか、誘拐されるわ。
「フネさん、じゃぁ、今日はコレ、着て帰ります。んで、明日返しにくるわ」
「明日は休みでいいよ」
「ん、わかった。でも来てもいいでしょ。暇なら来るかも。仕事じゃなくて遊びに」
「ハハハ、なんだい、こんな婆さんと遊んでくれるのかい」
フネは笑うととても優しいお婆様に見える。
目尻のシワがとても魅力的に見える。
いつも笑っていればいいのにな…。
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