第12話 時の止まったクローゼット

クローゼットを開けると、まぶしいぐらいのハイブランドの洋服がズラー~リ。

思わず「ふはぁ〜ぁ〜ん」と声が出る。

フネは険しい顔で、「ん〜」と考えこんでいる。

「フネ。さん? まさか、この服を捨てるの?

」と、手に持った袋を前に。

するとフネは「どうしたもんかね。これは何ゴミになるんだぃ?」

「ゴ、ゴミに? えっと、、」

わかる。これは『古着』と言って資源ゴミだ。けど、私は言えなかった。

「別に、、捨てなくていいんじゃない?」

「いや、もうこんな服はいらないのさ」

「だからと言って、、まだ汚れても、破けてもいないのに、、」

「私も少し前まではそう思ってたんだよ。だけどね、この年になると、このまま残しておく訳にもいかないしね、誰かが処分しなけりゃいけないだろう?」

そういえばフネはいつも同じような格好をしている。

「と、とりあえず、取っておけば? 腐るものでもないし」

「気になってね。随分前から、気になっていたのさ、早くなんとか片付けないとね…」

「もったいないじゃん、フネさんっ、フネさんはお金持ちだから、あんまりわからないかもしれないけど。 ここに下がってる服はね、私なんかが一生のうちに一着手に入れられるかどうか… ってぐらいの品なんだよ」

「まさか。結城紬の着物じゃあるまいし」

「ディオールに、グッチに、シャネル、、いったいいくらで買ったのよ。これフネさんが買ったんでしょう?」私は遠慮しながらもついつい服に手が伸びる。

「まさか。あたしはこんな服は着ませんよ」

「え? じゃぁ、これは誰の?」

「空の向こうに行った娘だよ」

「…。そらの、、空の向こうって…。亡くなったって事?」

「そう。5年前に、あっという間に死んじまったよ」

「  そっか。 それでこのままだったのね。」

「娘の遺品を片付けるって、やらなきゃと思いながら、なかなか難しくてね。結局、今までこのまんまにしといたってわけ」


そうか。でもそうなら尚更私が捨てるのもどうかと思うよ。

「フネさん、娘さんは独身だったの?」

「結婚してたね。出戻って来たけど、息子が1人いたよ」

「お孫さん? お孫さんに話してみたら?」

「あの娘の葬式以来会ってないよ」

「連絡つかないの?」

「なんでだい?」

「高価な物だし、遺品だし、やっぱり、捨ててしまう前に相談してみたらどうかと思って」

「…。いいよ。ありゃバカ息子だから」

なんかあったんだろうなこりゃ。


しかし、素敵。

「あ、あの、フネさん。ちょ、ちょっと図々しいお願いなんだけど、この服をしばらく見ていてもいいかしら?」

「いいわよ。なんだい? アンタ、こんなのに興味があるのかい? 以外だね、いつも地味なのに」

「うん、現実は地味だけど、本来の私はこっちのはずなの」

「ワハハ。アンタ、面白いね。 着てみなよ。私にそれ着て見せてよ」

「え!!!!? 着ても良いの???」

「いいとも。いいとも。このフネさんが見立ててやるよ」


それからしばらく、フネと一緒に、これにこれが合う。いや、これじゃ野暮ったい。こっちの色を差し色にして、この靴をはきなさい。じゃぁバッグはコレだね。あら、いいじゃないの。とワイワイと過ごした。

着ては戻し。着けては戻し。

私は着せ替え人形のように。

フネも年齢も時間も忘れたように、、キラキラした目で私と服選びを楽しんだ。

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