第10話 断捨離

フネの家に通うようになって4日。

リビングと台所の片付けから始まり、徐々にフネの家に空気の流れが戻ってきていた。

私はこの黙々と作業をする時間が性に合っているようで、充実した毎日を送っていた。

本来姫であった私が、こんな使用人のような事をするのはどうなのかとはじめは思ったが、フネの家の物は、古いが不潔ではない。

それどころか、紙やペンひとつとっても、、それこそ爪楊枝一本まで、、上質な物なのである。私にとっては宝探しのような時間だった。フネは「それはいらない」と言うが私はすぐにゴミ袋に入れる事かできずに、「後で分別する」とダンボール箱に取っておいた物もある。

潔く何でも「いらない」と言うフネに「ちょっと待って、これは高価なもんだよ」と言わなかったのは、まだまだまだまだ高価な物があって、それに比べたら私の価値観の「もったいない」なんて意見は全く意味のない事に感じたからだ。

実際、箱の中に貯めていたいろんな物も、結局ゴミ袋に分別してゴミの日に出した。


フネは片付けの指示をしながら、「ああ、懐かしいね。ここにあったんだ」と時々思い出にふける。それは写真でも手紙でもなく、ハンカチだったりレシートだったりした。

しばらく眺めて「はい、捨てて」と言う事もあれば、大事な物の箱に入れる事もあった。

基準がわからない。

「ねー、フネさん、フネさんが捨てたくない物ってどう選んでるの?」

「…」ゆっくりこちらに視線を合わせたフネはこう言った。「捨てたくない物かい? 無いね。なんにもいらないんだよ、ホントはね」「でも、ゴミ袋に入れない物もあるじゃん。それは?」「ああ、これかい? そうだね、、これだっていずれは捨てるさ」「何か思い出があるの?」「ははは、、思い出? そうだね。まあ思い出か。記憶っていうのかね。薄れてしまうものを、、留めておきたいのかねぇ」

なんだろう。恋かな? 旦那さんにもらったハンカチとか、一緒に食事に行った時のレシートとか…。まあ、あんまり聞くとうざがられるだろうし。もう聞かんとこ。

私はまた黙々と、宝物がいっぱい詰まったゴミ袋作りに勤しんだ。


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