第9話 仕事
高級ブランドのふかふかタオルを雑巾にして台所の床を拭き始めると、すぐに雑巾が真っ黒になった。
やり始めたら気になるもので、あっちもこっちも片付けたくなる。フネが「アンタ、何やってんの?」と。「ちょっと掃除」「なんで?」「気になるから」「そんな、人の家の掃除して何になるのさ」「…。それもそうだな。」止めて立ち上がった私。
絞りにくい高級雑巾を洗おうと洗面所に行った。適当な場所にその雑巾を干して手を洗いフネの元へ。
フネは珍しくお湯を沸かしていた。ティファールで。2つのカップにスティックコーヒーふわラテをサラサラと入れお湯を注ぐ。
「アンタも飲むでしょ」「はい、いただきます」うわっマイセンのカップに、、ふわラテ…。
「ねー、フネさん。分かってる? このカップ、超高いんだよ」「知ってるわよ。あたしが買ったんだから」「今、使うのもったいなくない?」「それはアンタが若いからよ」「ヘ?」「あたしみたいに老い先短いとね、今使わなくていつ使うの?って思うようになるのよ」「は〜。なるほど。」「アンタ、仕事は?今日も休みなの?」「…。それが、、実は、、、無職になっちゃったんだ…。」「あら、じゃあ暇でしょうがないじゃないの」「ん、まあね」ばつが悪く声がかすれる。
「そうだ! それじゃアンタ、バイトしない?!」「は?」「来れる時で良いわよ」「え? なんの仕事?」「うちの片付け。まあ、、掃除?って言うのかな?」「ここの掃除? で、お金もらえるの?」「要らないって言うなら、、頼めないな」「なんで?」
「だって、こき使えないじゃない。雇ってると思えば、頼みやすいわよ」「…、で、いかほど?」「1日1万円、食事付き」「は?1日?とは??」「そうね、8時間ぐらいかな、休憩時間込みで」「う〜ん。長いな」「半分でも良いわよ。4時間5千円」「わかりました。よ、よろしくお願いします」フネはおもむろに雑多なテーブルの上から手帳とペンを取り出しカレンダーの今日に8−と書き出した。「アンタが来てゴミ出しを始めたのが、8時だったから、今日は8時からね。12時の休憩まで、今日はこのテーブルの片付けをしてちょうだい」「ぇ?もうスタートしてんの?」「あら。今日は暇じゃないの?」「いや、暇だけど…」「じゃあ、いいじゃないの。 物は勝手に捨てない事。何をどこにまとめたのかわかるように私に伝えること」
そんな成り行きで、私はフネの家で働く事になった。
私がテーブルの上を片付けるのをフネはソファーの方から見ていて時々「それ何?ちょっと見せて」とチェックする。「要らないわ、捨てて」フネが「捨てない」と判断したものは空き箱に。要らないものはゴミ袋に。
結局、ほとんどのものはゴミ袋に入った。
小銭も沢山出てきた。
フネはソファーの方で小銭を数えて「よんせんにひゃくえんあったわ」と笑っている。
久しぶりに何も乗っていないテーブルを拭く。ついでにテーブルの足や椅子のホコリも拭き上げると、さっぱりと空気まで明るくなった気がした。
こんな感じでフネのチェックのもと、リビングが片付けられていき途中の休憩でコンビニにおむすびを買いに行き一緒に食べあっという間に午後4時になった。
「もう終わりにしてー。今日は修了。明日のゴミを玄関に持って行って終わりね」「はーい、わかりましたー」
フネはまた手帳に『8-16(1)』と書入れ私に封筒に入れた1万円を渡してくれた。
「ご苦労さん、アンタ、ここにサインしなさい」「名前?書けば良いの?」「○にあ、で良いわよ。アンタのあ」まあ、お互いに名前なんてなんだっていいんだけどね。
「アンタ、明日は?」「来れますけど」「じゃあ、明日も8時に来れる?またゴミを出してもらいたいのよ」「わかりました。8時に来ます」
まだ明るい外に出て、空を見上げると、うっすら夕焼けが始まっていた。
働いた。働いてお金をもらった。
フネから受け取った封筒をしっかりポケットにしまって私は家に帰った。
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