第8話 ゴミ出し
「ご馳走様でした」
再度お礼を言って、出前の器を玄関先に出してフネの家を後にした。
柿の種を買うのを忘れ家に帰ったが、実は帰りにフネからペットボトルのお茶と戸棚にあった賞味期限間近のお菓子や煎餅をもらったのだ「いいから、どうせ食べきれないんだから、アンタ持って帰って」と紙袋に入れて持たせてくれたのだ。
そして今、某高級百貨店の紙袋が、私の部屋の片隅に座っておいでになる。
この、円も縁もない袋に、私の部屋の安価な者達全てが嫉妬と憧れの視線を集めているようだ。すごい存在感。たかが紙袋が。
あれから何故か、フネの事が頭を離れない。
今、フネは何をしているだろう。
きちんと台所の窓を閉めただろうか。
なんだろう、この気持ち。
翌朝。早朝に目を覚まし、ああそうだった、私、無職になったんだったと思い出す。
今日もなんの予定も無い。バイトを探さなきゃいけないのはわかってるが、正直言うと、履歴書もまだ用意していない。
この年まで、就職もした事が無いのだ。
バイト歴の履歴書を書くのは自分でもため息が出る。はっきり言って好きで続けていた仕事など1つもない。
しかも私は働きたく無いのだ。
深い毒素のような溜め息をつく。
あの紙袋からフネにもらったお茶を取り出し、キャップを開けてコップに注いだ。
そういえば、フネ、ペットボトルのまま飲んでたな、、。ふふふ。
あ、ちょっと待てよ。
「月曜日じゃん!」
そう、ペットボトルゴミの日よ。
いかんいかん、こうなったら、フネの台所のあのペットボトルの山が気になって気になって仕方ない。
どうする?どうしよう。
そうこうしているうちに、収集車が来てしまうよ。
ああもう、とりあえず。とりあえずフネの家まで行ってみよう。そしてどうするべきか考えよう。
私は自転車でフネの家に向かった。
自転車だとあっという間、5分ほどでもうフネんちの前に。
門の前で、呼び鈴を押そうかどうか迷っていると中からザザ、ザザ、ゴロガラ、ガラン、ゴットンザザザ、と音がしてガチャ、ズズズと玄関のドアが開いた。あ!フネ!「ぉ、おはよーございます」フネは顔を上げると「ああ、アンタ。いいところに来た。ちょっとコレ、」と、ゴミ出しをするところだった。
「やるやる。フネはいいから、危ないから。 私やるから」とフネを玄関に残し門の前までペットボトルゴミを運んだ。
幸いフネはキレイに資源ゴミにまとめていたので、手を汚す事なく運べた。もともとはきちんとしてるひとなのかもしれないな。
往復し半透明のゴミ袋8個ほど運び出した。
ペットボトルのあったスペースがスッキリと広くなり、お勝手口のドアも開けられるようになった。
「なんかさぁ、モップとか、雑巾は無いの? タオルでもいいよ」「タオルなら腐るほどある。たしか、2階の上がってすぐ左の納戸に箱に入っていっぱいあった。見てきて」「はいわかった」コの字の絨毯貼りの階段を上がると、左側の壁に引き戸があり、開けると箱がいっぱい重なっていた。
(えっと、、タオル。コレか、あ、シーツか。コレ、、バスタオル、コッチの、、おいしょっと、、)「あった。あったけど…」
箱を持って1階に降りる。「ねー、フネさん、こういう立派なタオルじゃなくてさ、もっと、こう、、使い古したやつないの?」「そんじゃ、洗面所にあるかな。こっちの裏に、トイレの奥が風呂。その手前に洗濯室がある。そのあたりのどっかにあるかな、アンタ見てきて」「はいよ」広い。そしてどの部屋にも物が溢れている。
洗濯室とやらに着くと逆に引くほどの色あせたタオルが沢山干してあった。
「このタオル、雑巾にしていいい?」「それはあたしが風呂に入る時に使っているからダメ」「新しいタオルおろせばいいじゃん」「新しいタオルは絞れないんだよ分厚くて使いにくいったらありゃしない」「そぉう?」
「私はね、風呂に入りながら洗濯するんだよ。その時使ったタオルはその時に干す。下着も手洗いして干してるんだ。だから薄いほうがいいんだよ」「洗濯機あるのに使わないの?」「あたしゃ機械は面倒。」
この立派なタオルとうちのタオルを交換したいぐらいだわ。んも〜しょうがない、これでいいっか。
しかも、洗濯機を機械って、、どの時代で止まってるんだよ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます