第6話 フネ
老婆の家は立派な造りだったが、雑然としていた。ホコリっぽかったし、古い物が積み重なったような空気の滞りを感じた。
普段私はあまり食べないほうなので、ざる蕎麦半分も食べたら苦しくなってしまう。なのにババアときたら「あんたも少し食べみな」とカツ丼のカツを小皿で私によこしてきた。何時ぶりだろう、こういう料理みたいなものを食べたのは、そして「ああ、わたし誰かとごはん食べたの久しぶりだ」とつい独り言を言ってしまった。
するとババアも「あたしもだよ」と言い、二人は何故か笑った。共感ってなんかいいもんだな。
ざる蕎麦が進まないでいると「それ、食べないのかい?」とババア。「うん…、なんだか苦しくなっちゃった」と答えると「かしな。私が食べるから」と。ざる蕎麦半分を3口でたいらげた。「ババア、すげーな」と思わず言ってしまうと、「あんたね、ババアにババアは失礼じゃないの」と睨むのでなんと呼べば良いですか?と聞くと「個人情報だから教えられません」と言う。まったく、可愛げのないババアだ。
「じゃあ、フネって呼びます」
「は? フネ?」
「乗りかかった舟の、フネです」
「…。いいわよ。フネね。で、あんたは?」
「アンタ、でいいですよ」
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