第2話 古着屋

よく行く古着屋の前で立ち止まる。

『スタッフ募集』の貼り紙が出ていた事に気づいたからだ。

が、すぐに断念。

店員に私の最も苦手とするナルシスト系オシャレ男子(細マッチョに顎髭 ォェ吐き気)がいるからだ。あいつと一緒には働けない。


まあ、せっかくお金のかからない見るだけ散歩に出てきたのだから、私の好きなあのコーナーを見て帰ろうっと。

そこは、型の古いブランド物が置いてあるコーナー。私はここの服が好きなのだ。

エルメス、シャネル、グッチ、ディオール、フェンディ、イブサンローラン、

重たく伸びないジャケット、無駄な装飾、

うわっ何この柄! すげー色合わせ。

誰がこんなの着るんだよ。つかどこに着て行くんだろう。

ある意味悪趣味。

ところが触ると質が良いのがわかる。

上質な生地を使って丁寧に仕立てられたという事が手触りでわかるのだ。

つるりとしたシルクのワンピース、

シャキ、テロ、とした麻のジャケット、

肩にぴたっとあたる細身のシルエットのシャツ。たっぷりと布を使った風をまとうようにデザインされたスカート。

本来の時代に生まれていたのなら、私はこれらの衣服をまとい、裾を汚すことはなく、汗をかく事もなく、お人形のようにただ優雅に過していたはずなのだ。だって姫なんだもん。

本来、私のクローゼットにあったはずのグッチのワンピースの値札を反す。

「いち、じゅう、ひゃく、せん、ま、、

9万…  古着で? 」

せめてTシャツでもと見るが「…4万」


やっぱ、生まれ変わるしかないんだな。

今の私なら偽物だとしても手に入れる事かできない。今、私の財布にはさんぜんはっぴゃくろくじゅうななえんしか無いのだから。

そしてそれが全財産だ。

何故現世の私はこんなに貧困なのだろう。

お腹が空いた。柿の種が食べたい。


もう部屋へ帰ろうと思い古着屋を出ると、あの私が生理的に無理な小ジャレ細マッチョ顎髭ヤローが「ありがとうございましたー」と発してきやがった。

何も買っていない私に、なんのお礼なのだ。

嫌味なヤツ。やっぱ嫌い。


商店街の通りは、欅の木が風に揺れて、私の頭上には清々しい青空が広がっているというのに、私は1つも幸せではない。

何もうまくいかない。

残りわずかな所持金から柿の種6個パックでも買って帰るとするか。


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