第六話

 僕以外には誰もいない放課後の図書室で、僕は打ちのめされていた。


 秋月さんに嘘の告白をした事。


 秋月さんが失神した事。


 秋月さんにフラれた事。


 そして、秋月さんに受け入れてもらえた事。


 色んな事がいっぺんに起こりすぎて、自分の中で整理できずにパンクする。


 えっと……どういう事だろう。


 秋月さんは、突然付き合うのは無理だと言っていた。


 けれど、友達からならOKだとも言っていた。


 それって……つまり……




「おい! 遊佐! 聞こえてんのか? 返事しろ!」




 弓野の声で、ハッと意識を取り戻す。


 


「おめでとう遊佐! これで遊佐もリア充の仲間入りだな! ぶはは! お前最高だよ!」




 そう言う弓野の声と、後ろで笑っている大森、根本の声を画面越しに聞き、僕は現実に引き戻される。




「とりあえず戻ってこいよ。話、詳しく聞かせろ」




 上機嫌な声音で話す弓野の声を受けて、僕はすごく嫌な気持ちになった。


 けれど、従わなければ罰は終わらない。


 気の向かないまま、自分の気持ちに整理をつけられないまま、僕は図書室を後にした。




  ×    ×    ×    ×    ×    ×    ×    




「まじかよ! アイツ失神したの?」


「やばいwww腹痛いwwwww」


「ブハハハハハハハハ!」




 空き教室に、品のない笑い声が響く。


 本当は、秋月さんが失神した事を弓野達に言うつもりはなかった。


 けれど、僕が必死に秋月さんの名前を呼ぶ声が画面越しに聞こえていたみたいで、追及され、誤魔化しきれず、結局白状してしてしまった。



 秋月さんの名誉を守れなかった弱い自分が死ぬほど嫌いになりそうだった。




「しかし、まさか成功すると思わなかったな」


「絶対にフラれると思ってたわ!」


「な、でも、『お友達からなら』OKだもんな」




 弓野が意外そうに言い、大森が驚き、根本が少しバカにする。


 三人の会話を聞きながらうんざりしていると、弓野が続けた。


 


「まぁ、成功したんなら約束は守ってもらうぜ。三週間、地縛霊とちゃんと付き合えよ、遊佐」


「うぐ……」




 弓野のその一言に、僕は顔を青くした。


 そうして、藁にも縋る思いで抗議する。




「……やっぱり、さすがに秋月さんが可哀想だからなしに……」


「何言ってんだよ! 男に二言はないだろ!」


「そうだぞ!」


「約束だろ!」




 けれど、三人の非難を受けて折れてしまう。




「とりあえず、来週から地縛霊と積極的に関わっていく事。その日一日何があったか放課後報告する事。いいな?」


「はぁ……わかったよ……」


「『北中生の叫び』は……遊佐の頑張り次第では無しにしてやってもいい。まぁ、とにかく頑張って面白い話聞かせてくれや」




 そう言って、三人は帰っていった。


 空き教室に取り残された僕は、呆然とその場に立ち尽くす。


 迷っていた。


 本当にこんな事をしていいのだろうかと。


 秋月さんを傷つけてしまっていいのだろかと。

 

 そんな罪悪感を引きずりながら、一人、窓から見える秋の高い空を覗いていた。

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