5日目
――5日目
俺と美玖は繁華街へ買い物に行く。
こうして二人っきりで街を歩くのは久しぶりだと思った。
隣に歩く彼女を一瞥する。
美玖は例の帽子にサングラスを掛けていた。
マスクは着用していない。
私服も目立たないよう、薄めの色合いであえてチョイスしているようだ。
まぁ、休業中とはいえ、国民的JKアイドルがこんな街中を堂々と歩いていたら大騒ぎだからなぁ。
しばらく歩くと、ふと街頭から曲が流れる。
「ミクちゃんの歌だぁ」
小さな女の子がお母さんに手を引かれながら言っている。
どうやら美玖が所属する『エンジェ・ヴァイン』の新曲らしい。
センターである彼女がメインで歌っている曲だ。
ビルに設置された街頭ビジョンでも、美玖とメンバー達が華麗に躍っている映像が流れている。
凄いな……俺はそのJKアイドルと一緒に住んで買い物に来ているんだよな?
しかも「好き」って面と面を向かって告白までされて……。
幼馴染とはいえ、陰キャぼっちの俺がいいのか?
美玖とショッピング街に行き、店舗のショーウィンドウを巡りつつ、実際に入って店内を見てまわった。
ぼっちの俺には「
こういうのが、デートっていうんだろうなぁっと思い始めた。
同時に、美玖も普通の女の子なんだと実感する。
「シンシン~、見て見て~ニャン♡」
一方の美玖は純粋に買い物デートを楽しんでくれている。
無邪気に笑いながら、猫のマスコットを顔に近づけて、「猫にゃんポーズ」をとって見せた。
……か、かわいい。
やべぇ、この子、ガチっすわ。
きっと今の俺は、自分でもキモイと認識できるくらい顔がニヤけてるだろう。
「あたしね。女の子らしくなりたいために、アイドルになったの……」
一休みした露店にて、美玖はふと言ってきた。
「女の子らしく?」
「うん。ほら、あたしって小学生まで髪も短くて男の子みたいだったでしょ? 男子とも平気で喧嘩して勝ってたし、ついた仇名が『
ああ、覚えている。
その圧倒的な腕っぷしで常に気の弱い俺のこと守ってくれたからな。
「でも中学に入ってふと思ったんだ……このままじゃ、シンシンに女の子として見てもらえないって……だから東京でスカウトされて、そのままアイドルになる決心をしたんだよ。少しでも、キミの理想に近づくために……」
「俺の理想?」
「だって、幼稚園の頃シンシン言ってたでしょ? 『大きくなったらお母さんと結婚する』って……シンシンのお母さん、とても女性っぽくて綺麗だから」
「……ガキの頃だろ? 恥ずかしい」
あの頃は何も考えずに、ぽろっと好き勝手なこと言っちまうもんだ。
にしても、こいつもよく覚えているなぁ。
「それでもね。自分を変えたかったんだぁ……あたしがアイドルになってみんなに認めてもらえば、シンシンも認めてくれるんじゃないかって……そんな気がして」
「美玖……」
「でも結局、キミから離れるてしまうんだから意味ないよね? あたしってバカだなぁ」
「そんなことねーぞ」
「え?」
「そんことない! 美玖はちゃんと女の子だ。アイドルだろうと関係ない……俺がずっと片想いしていた女の子なんだ」
「シンシン……片想いって、あたしのこと?」
俺は無言で頷く。
仏頂面だが、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
でも、長年の想いが打ち明けられて誇らしい気持ちにもなっている。
「嬉しい……嬉しいよぉ……」
美玖は
「な、泣くなよ」
「ごめんね……」
俺は首を横に振りながら腕を伸ばし、美玖の手を握り締める。
意外とほっそりした、きめ細やかな指先と優しい温もり。
「シンシン?」
「俺も強くなる……今度は俺が美玖を守れるくらいに……だから、これからもよろしくな」
「うん……うん……えへ♡」
美玖は涙を拭きながら、ニッコリを微笑んでくれる。
本当に、この笑顔を守りたい心から思う。
絶対に死にたくないと思った。
【芯真が死ぬまで、あと5日】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます