6日目




――6日目


 マネージャーの間宮さんが家に来た。


 なんでも急にCM仕事が入ったそうだ。


「間宮さん、しばらく仕事を休みって言ったでしょ!? 事務所とだって話し合っているんだからぁ!」


 珍しく美玖が怒っている。

 

 間宮さんは困った表情を浮かべた。


「だけど、スポンサーはどうしてもミクに出てほしいって言っているんだ。二日あれば終わる仕事だし、事務所からも出てくれないか交渉してほしいと言われている。なんとかやってもらえないかな?」


「今は駄目ッ! あたしにとっても大事な時期なんだからぁ!」


 頑なに拒む、美玖。大きな瞳がチラチラと俺を見つめてくる。


 そっか……きっと俺に気を遣ってくれているんだな。


 彼女の中では、俺はまだ「守ってあげるべき、シンシン」だから。

 確かに美玖は強いし、しっかりもしている。

 一緒にいて心強いし……いや違うな。


 本当は俺だって離れたくないんだ。


 でも……。


 俺は台所から、ひょっこりと顔だけを出してた。


「美玖、間宮さんも困っているようだし、二日で終わるなら行ってくれば?」


「シンシン? でも……」


 不安そうに見つめる美玖に、俺は手招きして呼ぶ。

 そのまま彼女の耳元に、自分の唇を近づけた。


「それに、まだ俺が死ぬ日ってわけじゃないだろ?」


 居間にいる間宮さんに聞こえないよう囁く。


「……うん、そうだけど。だったらお願いがあるの」


「お願い?」


「キスして」


「え? キス?」


 美玖は頷くと瞳を閉じて、小顔と桃花のような唇を近づけてくる。


 な、なんちゅう催促をしてくるんだろう、この子は!?

 

 俺は間宮さんの存在を意識しながら、美玖の柔らかそうなほっぺに唇を重ねた。


 ちゅっ


「こ、これでいいか?」


 美玖は瞳を開けて、キスした頬に指でなぞる。

 一瞬だけ物足りなさそうな不満顔を浮かべた。


「わかった……いいよ。キミの気持ちは伝わったから♡」


 ころりと表情を変え、ニッコリ微笑んでくれる。



 俺がホッと胸を撫で下す中、美玖は間宮さんの車で仕事に出かけた。


 それを見送った俺は、ふと頭を過らせる。



 美玖と二日も会えないのか……。



 少し前まで、三年も会ってなかったのに……たった二日が長く感じてしまう。




【芯真が死ぬまで、あと4日】




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