第5話 久しぶりの君は

 それから更に2日後。

 二人の再会はもう一度叶った。


 マクドナルドでコーヒーを飲みながらの歓談となってしまったが、それでも何も話せないよりは良い。満流はそう考えていた。

 約束してから2日間があったのだが、満流は考えていた。

 この衝動って何だろうな、と。

 実は前から瑛美のことが好きだったのかなぁ。鞠子の友達だから遠慮していただけで、瑛美のこと気になっていたのかな、自分。

 それとも純粋に進路のことで話したいだけなのかなぁ。でも、瑛美のこと…この間見た感じだと、抱けると言えば抱けるなぁ。

 先日、カフェで再会したときは瑛美は短く揃えた前髪にセミロングの髪を後ろで一つに結わいていた。その髪を仕事終わりには下ろしていた。

 よくいるタイプの大人しい小綺麗な女性、という感じの瑛美だが、愛想が良ければ尚良い。普段からそんなにキラキラ笑うタイプではなく、落ち着いていて良くも悪くもあまり周りに迎合するような人間ではなかった。我が道を行く。彼女についてはその表現が似合うと、満流は考えていた。


 約束のマクドナルドの前で先に来て待っていると、瑛美はモノクロのギンガムチェックのワンピースに髪を下した姿で現れた。

 同じ30歳だとは知っているが、でも25歳だと言われても通じる若々しさだ。変わらない、大学院生の頃から。

「お待たせ、有沢君」

 この前持っていたトートバッグを今日も持っている。そのトートバッグを肩から下げて、今度は少しにこやかに現れた。


 自分が最近孤独で満たされていないからだろうか。

 やけに瑛美が可愛く見える。

 以前に自分の目に映っていたときよりも可愛らしく見えるのはどういうことか。


 満流は、子供相手に営業をしているのがどうにも性に合わず、予備校講師の仕事を自分に合った仕事と思っていない。今在籍している予備校は2つ。1つは大学時代からお世話になっている小規模の予備校で、もう1つはスター講師軍団が広告に並んでいるような大手予備校だ。小規模の予備校の方で出会った女講師に誘われて、推薦を受けて大手予備校に行ってみたは良いものの、嫌がらせがひどくてこのまま続けて良いものか、と思っている。


 そんな毎日を送っている自分に、瑛美が一服の清涼剤のように感じられた。

 大人の女性。

 自分と同じ境遇。

 久しぶりに営業が全く絡まない笑顔。


 ああ…本物の人間関係ってこういうことだよな。

 満流はホッと溜息をついた。


 

 

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