第4話 アポイント

 あの偶然の再会から3日。

 満流は連絡を待っていた。あれだけそっけない態度をとられていたにも関わらず、心のどこかで期待していたのだった。なぜか連絡をもらえるという自信が少しだけあったのだ。

 それほど、昔はそれなりに仲良く話をしていたと思っていた―――。


 だが、3日間全く音沙汰がない。

 それで結局、満流は自分から連絡してみることにした。

 それがちょっと情けないとも感じる、あれだけ自分から「連絡して」と言っていたのに。


 それでも、何故かこの機会を逃さない方が良い気がしてならなかった。

 どうしてか自分でも分からないほど、何かに突き動かされる感覚があった。


 電話の呼び鈴の音を聞く間も緊張していた。

 出てもらえなかったらどうしよう、とここに来て弱気になる。

 結果、出てはもらえず留守電にメッセージを残すことになった。

「もし良かったら連絡下さい」

 それだけ残した。

 連絡をとるのにこんなに緊張する相手ではなかったはずなのに、時が変えてしまったんだな、としみじみ寂しく思う。

 魯迅の「故郷」でも旧友と再会したときに「旦那様」だか何だか、よそよそしい呼び方をされて、寂しく思った―――というエピソードがあったな。

 自分自身は変わっていなくても、事情が変われば関係性が変わる。

 その寂しさを満流は噛み締めていた。


 その2日後。

 満流のスマホにメールが来ていた。瑛美からだった。



 title 久しぶりに

 この間久しぶりに会ったときは、ちょうど機嫌も悪くて、有沢くんのことも拒否してしまってごめんなさい。

 良かったら一度会いましょう。マックでコーヒーでも良いので。

 よろしく。


 平野瑛美



 マックでコーヒーかぁ。

 そんなに盛り上がらないだろうけど、必要な話をする分ならそれで充分か。

 きっと彼女の方も俺の本心というか、将来のヴィジョンについて聞きたがるだろう―――そんなもの、今のところはないのだけれど。


 研究なんて趣味だし、自己満足だ。

 誰かが言っていた。

 司法試験を目指す連中が言っていたんだ。

 そうなのかもしれない、でも研究とは文明を底支えするものだ。

 誰かがやらなければならないものなんだ―――そう思ってずっと大学院で研究していたが、政府もあいつらと同じように考えているのだろう、ここに来て文系分野の研究室の縮小問題が上がって来ている。

「文系なんて何の役に立つの?」議論だ。


 それを言ったら結果を出さない理系の研究は何のためにやっているのか、ということになる。研究とはそういうものだ。

 でも、そういうことは携わっている者にしかリアルに理解することができないものだ。伝えようとしても難しい。そのことが自分を含め研究者達の立場を弱くしている。

 瑛美もそんなことを話すだろうか。

 

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