第8話
ガレンダウロ城内は大混乱に陥った。
城の側面から、城壁をものともせずに強引に乗り込んできたらしい。
単騎、という報告を聞いたが、アニスはまだ直に目撃したわけではない。
「単騎だと?」
守備兵は何をしていたのだといらだちが募るが、敵が一騎当千の強兵である可能性はある。しかもガレンダウロ城は、リストリア側からすれば最奥部である。奇襲を仕掛けるとすれば、並の腕前ではこなせまい。よほどの手練れが大暴れしているに違いなかった。
アニスは王宮の窓から城内に目を走らせる。
見えた。
先ほどまでは、角度の問題ゆえかまだ視界に入らなかったが、今ははっきりとその姿を現している。
一騎当千とは、このことだった。
侵入者は、降りかかる矢の雨を振り払い、行く手を阻む守備兵を蹴散らし、王宮をめがけて一直線に向かってくる。決して闇雲な突撃では、ない。
まずい。
強い。
今、城内に兵はほとんど残っていない。主力の精鋭部隊は言うまでもなく、北から迫るリストリア軍本隊を迎え撃つためにドザーヌ砦に配置したままだし、東のゼボ砦でリストリア軍を生け捕りにするために動員した軍勢はいまだ帰路の途上にある。兵が完全に出払ってしまったわずかな隙を逃さずに襲いかかってきたのだ。状況を見極める判断力も、突破力をも兼ね備えている。強敵だ。
肝心の軍龍もあてにならない。
歴戦の軍龍は前線のドザーヌ砦に送ってしまった。まだ若い訓練中の軍龍ではまともな統率がとれず、かえって暴走してしまい味方に被害が出る恐れすらある。
おれには何ができるんだ。
アニスは拳を強く握りしめる。
何のための龍騎士だ。
十五年前、自分の無力を痛感した。守るべきものを守れる強さを求め、龍騎士の道を歩んだ。
アニスはガレンダウロ帝国の将校の立場にある。守るべきは王であり、国であり、城であり、その民である。今、立ち上がらなければならない。
だが、軍龍はいない。
軍龍は乗り物であり、強力な武器である。軍龍のない龍騎兵など歩兵も同然であり、龍騎兵としての半分の実力も発揮できない。
歩兵として槍を振るうか。
もちろん、本来ならばそれが筋だろう。
たとえ非勢を悟ったとしても、我が身を盾とし敵を防ぐ。それが騎士の本懐である。
だが、それでは勝てない。勝てなければ、意味がない。
アニスは、国や王にたいして格別な思い入れがあるわけでは、実はない。ただ、ここで背を向けてしまっては、龍騎兵を志して以来の生き方が嘘になるようで、それが嫌だった。
目の前の障害を打ち払う、最適解はどこにあるのか。
敵が迫る。
一刻の猶予もない。
アニスは腹をくくる。
玉座の間に向かい、王に進言する。
玉座の前で、王は黙し、低くうなった。
「よく言えたものだ」
魔龍ガルゴンは咆哮した。
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