第34話 水路掃除は皆やりたくないそうです

 エルに依頼を報告した優気は、帰る途中でギルドの掲示板に気になる依頼を見つけた。

「ランク不問、町にいる人々からの声?」

 モンスター討伐や薬草採取などの依頼とは、場所を分けられている。

 依頼の数は多いが、誰もその依頼を受けようとしない。

 不思議に思い、受付にいるリアに話しを聞きにいった。

「リアさん、少し良いですか?」

「優気さん、ええ、大丈夫ですよ。どうしました?」

「依頼が張っている掲示板に、町にいる人々からの声という今まで受けた内容とは違うものを見つけたんですが・・・」

「ああ、あれは町の人達が困っていることを依頼として張っているんですよ」

「へぇ~、パッと見ただけですけど水路の掃除とかがありましたね」

「はい、掃除以外にも依頼主の所に直接行って仕事を手伝うなど色々あります」

「ランク不問というのは?」

「ランクに関係無く、町の力になって欲しいという意味で書いたのですが・・・」

 リアは、軽く溜め息を吐いてから優気に説明する。

「主に依頼内容に対して報酬が低すぎるといった事から受ける人があまりいないんです」

「そんなに低いんですか?」

「そうですね、どうしてもモンスター討伐のような依頼と比べると低いですね。もちろん、報酬の問題だけでは無いんです。依頼主とのコミュニケーションが上手くいかないといった、人同士のトラブルが発生することもあって・・・」

「普通の依頼だったら、人と会話することなんてほとんど無いですもんね」

「そういった問題が色々と重なって受ける人がいないんです。受ける人はいないのに、依頼は増えていくばかりで、どうしたら良いものか・・・」

「・・・あの、僕1つ受けてみても良いですか?」

「えっ?」

 いつもはカルマ達がいるが、今は優気1人でいる。

 1人でも出来る依頼があるなら受けておきたいと考えた。

「今日は休みにしようと思っていたんですけど、町の中での依頼なら危険も無いと思うのでやってみようかなと」

「その、今日はカルマさん達は・・・」

「疲れが溜まっていたみたいで、ぐっすり寝ているんです。だから、1人でやろうと思うんですけど、1人だとキツいですかね?」

「う、ううっ・・・優気さん本当に貴方って人は」

「リアさん!? 急にどうしました?」

 リアが急に泣き出すので慌てる優気。

 涙を拭い、気持ちを落ち着かせるリア。

「すみません、優気さんがあまりにも良い人過ぎて、本当他の冒険者にも見習って欲しいです」

「そんな大袈裟ですよ。僕はまだEランクですし、他の冒険者の方が凄いと思いま・・・」

「いえ、そんなことはありません! 優気さんは、もっと自分に自信を持って良いです!」

「あ、ありがとうございます」

「コホン、失礼しました。町での依頼は、危険度は低いですが厳しいと思ったらいつでも私に言って下さいね。優気さんも疲れがまだ残っている可能性もありますし」

「はい、気を付けます」

「依頼は、どれにしますか? 私が優気さんが1人で達成出来そうなものを幾つか選ぶことも出来ますが」

「それなんですけど、さっき見た水路掃除の依頼を受けたいんですけど」

「水路掃除ですか!? 良いんですか? 報酬は低い方ですし、1人でやるにはかなりキツいですよ?」

「普段はカルマ達に頼ってばかりなので、少し頑張っておきたいんです」

「分かりました。それでは、ひとまず今日出来る分の掃除だけをしてきて下さい」

「何日かに分けられるんですか?」

「分けても良いですし、今日した所までで終わっても大丈夫です。この町の水路は広いですから普通なら多くの冒険者でやるような内容なんですよ」

「そうですか、道具とかってどうすれば良いですかね?」

「それは、ギルドから支給します。もし、他に必要なものがあれば準備するので言って下さいね」

「分かりました」

 リアに、依頼を受理して貰った後、道具を持って早速水路に向かった。



「水路って今までしっかり見て無かったけど、結構汚れているなぁ」

 袖をまくり、裾を上げて濁っている水の中に入っていく。

 水位は、膝下くらいの深さだった。

「ゴミとかも結構落ちているな。確かにこれは1日じゃ終わらないな。うっ、臭いも凄い。シルファはこの依頼は厳しいかもな」

 優気は、まずは目に見えるゴミを拾っていく。

 水路の端に行き、水中の中である物を探す。

「あ、あった。これかな?」

 水中から両手を使って持ち上げた物は、水色の球体だった。

「確かに、リアさんから貰った物に比べたら色が暗くなってるな」

 近くの石床に球体を置き、アイテムボックスから全く同じ大きさの球体を取りだした。

 並べて比べてみると、アイテムボックスから取りだした方は光り輝いている。

「確かこの球体を設置すると水を綺麗にしてくれるんだったよな。ゴミが無いかもう1度確認してから新しいやつを設置しよう」

 念入りに確認した後、新しい球体を古くなった球体があった場所に設置する。

 設置すると、球体の周りの水が少しずつ綺麗になっていき、水路に広がっていく。

「良かった。ちゃんと起動出来たみたいだ。水が透明になっていくのを見ると、何だか心も爽やかになるな」

 同じ事を何カ所か繰り返していると、太陽が傾き始めていることに気が付いた。

「もう、夕方か、時間が経つのは早いな。リアさんが日が昇っている内にギルドに戻ってくるように言っていたし、今日はこれで終わりだな」

 優気が後片付けをしていると、誰かの視線を感じ会話しているのが聞こえた。

 優気と同じ冒険者達だった。


「おい、見ろよ。あいつ水路の掃除なんかしてるぜ」

「俺らと同じ冒険者か? よくこんな汚え仕事出来るよな。どうせ、すぐ汚れるから意味無いのにな」

「全くだ。どうせ汚れるなら、自分が倒したモンスターの返り血で汚れる方を選ぶぜ」

「実力もない上に馬鹿なんだろう。これで、俺らにも掃除しろみたいなこと言われたらキレそうだぜ」

「その時は、あいつに任せようぜ。きっと、掃除が好きだろうからな」

 

「はっはっは」と笑いながら冒険者達はその場を去っていった。

「この依頼って、本当にやりたい人いないんだな。まあ、確かに疲れるし・・・」

 クンクンと自分の臭いを嗅いでみる。

「・・・うん、しかも体が臭くなるもんな」

 水路は綺麗になったが、掃除をしていた優気の体は酷い臭いになっていた。

「ギルドに戻る前にお風呂入って行った方が良いかな?」

 早めにギルドに行きたいが、リアに迷惑は掛けたくないと思う優気。

 体を綺麗にする魔法が無いか探してみたが、見当たらなかった。

 とりあえず、水路から出てギルドに向かう事にした優気だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る