第32話  落とし物を拾ったら、皆が驚きました

「ゆ、優気君、そんなことしたらダメじゃ!」

「失礼します。神様、この書類なんですけど・・・何しているんですか?」

 アリスが部屋に入ると、神様はテレビにおでこをくっつけ、何かを見ていた。

「あ、アリスちゃん。大変じゃ、優気君が」

「えっ? 何かあったんですか」

 神様の慌てようにアリスもテレビに売るっている映像を見る。

 映像にはギルドに走って向かっている勇気の姿があった。

「良かった優気君、元気そうで。・・・この映像の何処に慌てる要素があるんですか?」

「だって、優気君がこの世界に行ってから初めて1人で行動するからワシ心配で」

「はぁ~、そんなことで」

「そんなこととは何じゃ! 優気君に何かあったらどうする」

「彼は危険な事が起こるのは承知の上で転生しているんです。それに彼が1人で行動するのは別に初めてではないでしょう」

「初めてじゃよ。だって、転生してすぐにテイムしておったもん」

「えっ!? それは凄いですね」

「それからも仲間を増やしていき、立派に冒険者もやっておる」

「へぇ~、冒険者ですか。戦闘とか苦手そうに見えましたけど、何とかやっていけているようですね」

「うんうん、このまま幸せになってくれるようにワシから何かプレゼントでも贈ってやろうかのう」

「神様が1人の人間に肩入れしないで下さい。それと、神様はずっと優気君の行動を見ていたのですか?」

「うむ、あ、もちろんプライベートな所は気を付けているぞ。トイレとか」

「そうですか・・・どうりで、最近仕事のミスが増えていた気がしたんですよ」

 優気の話しを聞いていたときの笑顔は消え、後ろから怒りのオーラが出ていた。

 それを見た神様は、思わず「ひっ!?」という声を上げた。

「お、落ち着いてくれアリスちゃん。ワシには優気君の事を見守る義務が」

「安心して下さい。神様が仕事をしている間は私が代わりに見ておくので」

「なっ、ずるいぞ。アリスちゃんだけ」

「最近休みを貰っていなかったので丁度良いと思いまして」

 アリスは、指をパチンと鳴らす。

 すると、いつの間にか神様の両隣にサングラスを掛けたガタイの良い男天使が立っていた。

「連れて行って」

 アリスの指示に従い、神様の両腕を抱えて歩き出した。

「嫌じゃ~~、放せ~~、仕事よりも優気君の第2の人生じゃ~~」

 2人の天使に連れられ神様は仕事をしに行った。

「やれやれ、あの神様にも困ったものね。転生させた人なんて他にもいるのに、どうして優気君に対してだけあんな風になっているのかしら。・・・でも、実は私も少し気になってたのよね」

 アリスは、イスを用意して優気が映っているテレビを見始めた。





 カルマ、シルファ、エレナの3人を宿に置いてきた優気は、初めて1人でギルドに来ていた。

「ええっと、エルさんは何処だろう」

 依頼の詳細を話すためエルを探す優気。

 朝のギルドは依頼受注の冒険者で溢れていて、中々見つけられない。

「う~ん、困ったな。受付の人にエルさんが何処にいるか聞きたいけど、忙しそうだし、勝手に部屋に行くのもな~」

 冒険者カードを貰って以降、2階にあるギルドマスターの部屋には行っていない。

 何度か他の冒険者が上に上がって行くのを見たこともあるが、どれもエルが一緒だった。

「今日は休もうと思っていたし、また後で来ようかな」

 1度ギルドを出ようとした優気だったが、ギルド内の空気が変わった。

 入り口の方を見ると、昨日の夜見たフードを被った男が入ってきた。

 灰色の上着と長い黒ズボンを履いている。

 ズボンのポケットに両手を入れ、依頼が載っている掲示板に向かう。

 他の冒険者は道をすぐに開けて、目を合わせないようにしていた。

「(何だろう、急にギルドの空気が重くなったような。あの人が来たからかな)」

 フードを被った男は、掲示板の前に立ち、張り出されている依頼を見ている。

 ポケットから片手を出して、1つの紙を取って受付に向かった。

 フードを被った男がいた場所に何かが落ちていた。

 それに気付いた優気は拾いに行き、ペンダントであることを確認した。

「(金色のペンダント? 誰のだろう? もしかして、あの人のかな)」

 チェーンの付いた金色のペンダントの持ち主は、フードを被った男だと思った優気は受付の方を見る。

 丁度、依頼の受注を終わったところだった。

「あの」

「あん?」

「これ、あなたのですか?」

「お前、何でこれを」

「掲示板の前に落ちていたんです。多分、依頼の紙を取ったときに落としてしまったんじゃないかと」


 周りの冒険者達がざわついている。

「あいつ馬鹿かよ」

「最近入ってきた新人だから知らないんだ」

「死んだな。可哀想に」


 冒険者がそれぞれ言葉を発しているが優気には聞こえていない。

「お前が拾ったのか?」

「はい・・・違いましたか?」

「いや、俺のだ」

 フードの男は片腕を上げた。

 冒険者やギルドの職員は優気が殴られると思い目を逸らす。


 ポンと優気の肩に優しく手が置かれた。

「悪い、これ大事なものなんだ。拾ってくれてありがとな」

「いえ、ちゃんと渡せて良かったです。今度は落とさないように気を付けて」

「ああ・・・お前新人か?」

「はい、冒険者になって一週間くらいでしょうか?」

「そうか、名前は?」

「優気です。あなたは?」

「俺は、レインだ」

「レインさんですね」

「“さん”は、いらねぇ。あと冒険者同士で、敬語は使うな。他の奴らに舐められるぞ」

「そうなんで・・・そうなんだ。分かったよ、レイン」

「ふっ、それじゃあな、優気。ペンダント拾ってくれてありがとな」

「どういたしまして、依頼頑張ってね」

 レインは、優気にお礼を言って依頼に向かった。

 冒険者達は、信じられない光景を見たという感じで動けないでいた。

「あれ? 何で皆固まっているの?」

「それだけ驚くべきことが起きていたからだよ」

「わっ!? エルさん」

「おはよう、優気君。今日も良いリアクションをしてくれるね」

「エルさんってクールな感じかと思っていましたけど、結構イタズラ好きですか?」

「そこはお茶目と言って欲しかったな。それにしても、いつも騒がしいギルドが静かになるから様子を見に来てみれば・・・」

「どうかしました?」

「そうだね・・・とりあえず、依頼の報告でも聞かせて貰おうかな」

「? はい」

 エルに付いて行き、2階に上がる優気。

 その姿を多くの冒険者が見ていたが、本人は気付かなかった。

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