第31話 「スリープ」という魔法は、よく眠れます

 窓から差し込む朝日の光で目を覚ます優気。

「ん・・・朝か」

 エレナが加わった事で部屋をもう1つ借りていた。

 2部屋になったことで、誰が優気と同じ部屋になるのかカルマ・シルファ・エレナの3人は話し合った。

 3人が話している間、優気は眠気が限界になり1人だけ新しく借りた部屋に移動しベッドに入った。

「あれ?」

 体を起こして、部屋の中を確認する。

 3人の姿が見当たらない。

「皆、同じ部屋で寝たのかな? 女性同士、そっちの方が良いか」

 優気は、ほっとしていた。

 女性と同じ部屋というだけでも緊張するが、この間のように朝目が覚めたら隣に女性がいるのは堪えられない。

 毎日ドキドキしていたら上手く休めない。

「ほっとしたけど、少し・・・寂しい気もするな」

 この世界に来てから常に誰かが近くにいた優気にとって、誰もいないというのも寂しい思いがあった。

「う~ん、元居た世界では一応1人暮らしも経験していたから問題ない筈なんだけど。気持ちだけじゃなくて、自分で出来る事も増やしていなかないと」

 両手で頬を叩き、気合いを入れる。

「よしっ! ひとまず、ギルドに行って詳しい報告をしに行かなくちゃ」

 今日のスケジュールを考えながら、隣の部屋に向かう。

 ノックをしてみるが返事がない。

「あれ? まだ寝てるのかな?」

 鍵は開いている。

 そっと、ドアを開けると声が聞こえる。

 3人とも起きているようだが、元気をあまり感じない。

「皆、起きてる? そろそろ、ギルドに行こうと思うんだけど・・・」

 部屋に入った優気は、3人が起きているのを確認した。

 正確には起きていた、というべきか。

「えっと、カルマ?」

「ゆ、優気様、もう少々お待ち下さい。優気様のお傍に一番相応ふさわしいものをすぐに決めますので」

「それって、昨日の夜話してたことだよね? シルファ?」

「すみません、主殿。この2人が、主殿と同じ部屋では無いと嫌だと駄々をこねるのです。全くもう少し大人になって欲しいものです。私のように」

「あんたの何処が大人だって言うのよ。主殿の隣は私! 主殿の隣は私! しか言わないじゃない! せめて理由くらい言いなさいよ! 私は、優気から血を貰わなくちゃいけないから隣で寝たいの。それに、優気を守れる強さもあるわ」

「えっと、エレナの話しを聞いても、やっぱり、昨日の話しだよね? 皆ずっと、起きてたの?」

「優気様の大切な血を簡単に吸わせるわけないだろう、この馬鹿者! 私は、優気様に初めてテイムされたのだ。つまり、私が一番長く優気様の近くにいたのだからこれからもいる権利がある。分かったら大人しく私と優気様を2人にしろ!」

 誰が優気と同じ部屋で寝るかという論争は、朝方まで続いていた。

 3人の目には薄らとくまが見える。

 詳しく話しを聞こうとする優気だが、3人に声が届かない。

「いい加減にしなさ~~~~~~~~い!!!!」

 宿の外にまで聞こえてしまうような大きな声が優気から出て来た。

 驚いた3人は、固まりゆっくりと優気の方を見る。

「ゆ、優気様?」

「おはよう、やっと聞こえたみたいだね」

 おはよう、という優気の言葉を聞いて窓の外を見る。

 朝日が出ているのを確認する。

「もう、朝だよ? あれから一睡もしてないの?」

 3人とも、優気から目を逸らし口を閉じている。

「折角宿を取っても、休んでくれなきゃ意味ないよ。誰か1人に決めずに日替わりにしよう。そうしたら平等じゃないかな?」

「・・・分かりました」

「主殿がそうおっしゃるのならば」

「私もそれで良いわ」

 完全に納得した訳では無い様子だったが、何か言い合うことは無かった。

「それじゃあ、僕はこれからギルドに行くけど、皆はここで休んでいて?」

「優気様、私も行きます」

 カルマが付いて行くと言えば、シルファとエレナの2人も付いてくる。

(う~ん、どうしよう。しっかり休んで欲しいけれど、皆無理して付いてくるよなぁ)

 悩んでいるとステータス画面が現れた。

 魔法の場所に、スリープと書かれた文字があり光っている。


 スリープ・・・対象の相手を眠らせる。最高で半日眠らせることが出来る。相手の状態によって効かない場合もある。


(カルマ達に効くか分からないけど、とりあえず)

「スリープ」

 小さな声で魔法を唱えると、3人は徐々に目を閉じていきそのまま眠りに付いた。

「良かった、皆ちゃんと寝ているみたいだ」

 床に倒れた3人を何とかベッドに運び、布団を掛けた。

 部屋を出る前に

「ごめんね、すぐに戻るから」

 と言って、外に出た。


「少し急いだ方が良いかな。そろそろギルドが冒険者の人達でいっぱいになる時間だ」

 軽く走ってギルドに向かう優気。

 この世界に来て初めて1人で行動している彼を、ハラハラしながら神様が見ていることは優気は知る由もない。

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