第29話 気合い?は凄いです

「ふぅ~、お腹いっぱいだ」

「満足出来た? シルファ」

「はい、主殿」

「それじゃあ、僕はお会計してくるね」

 美味しい料理を食べて満足したシルファのお腹は大きく膨れていた。

「シルファ、流石に食べ過ぎたんじゃない? お腹パンパンよ?」

「エレナの言うとおりだ。今にもはち切れてしまいそうだぞ」

「むっ? そうか? 一応、まだ余裕はあるのだが」

「嘘でしょ? まだ、入るの?」

「貴様の胃袋は底なしか?」

 シルファの言葉に驚きを隠せない、カルマとエレナの2人。

 エレナは、シルファのお腹をツンツンとつついてみた。

「ふふっ、何をするんだ。くすぐったいじゃないか」

「こんなに膨れていたらまともに動けないんじゃないの?」

「心配しなくても、普通に動ける」

「だが、貴様のその体ではまともに戦うことは出来まい。いつになったらへこむんだ」

「明日の朝には完全に消化出来ているから大丈夫だ」

「1日で消化しきれるとは思えないのだが・・・」

 3人がシルファのお腹について話している間、優気は会計を済ませガリアと話していた。

「えっと、これで足りますか?」

「ああ、大丈夫だ。何なら今日も無料ただで良かったんだぜ?」

「い、いえ、流石にそういう訳にはいきません。かなりの量を食べましたし」

「普通の冒険者なら、こんな条件を出されて断る奴なんていないがな」

「僕、可笑しいですかね。でも、美味しい料理を食べさせて貰ったからにはきちんとお金を払った方が良いと思って」

「いいや、可笑しくないさ。それが、兄ちゃんの良さなんだろうしな」

 ガリアと軽く話した後、3人の元に戻る優気。

「さあ、お金も払ったしそろそろ出ようか」

「優気、お金大丈夫だった? かなり食べていたと思うんだけど、主にシルファが」

「なっ!?」

「大丈夫だよ。前の依頼で結構貰っていたから」

「そう? なら良いけれど」

「すみません、主殿。これからは、食べ過ぎないように気を付けます」

「気を遣ってくれるのは嬉しいけど、僕は美味しそうにご飯を食べるシルファが好きだな。だから、シルファが満足するまで好きに食べて良いよ」

「主殿・・・はいっ! これからも沢山食べます」

「馬鹿者! 優気様の優しさに甘えるな! 少しは我慢することを覚えろ!」

「主殿が良いと言って下さったのだ。私の好きにさせろ」

 優気の言葉を聞き喜ぶシルファ。

 その様子を見たエレナは、シルファの耳元で呟いた。

「でも、そのだらしないお腹は優気もガッカリしているんじゃない?」

 シルファはエレナの顔をバッと見た後、優気の顔も見る。

「た、確かに、先程よりも表情が暗くなっているような」

「失望したのかもしれないわよ」

 ニヤニヤとシルファの反応を見て楽しむエレナ。

 優気とカルマは、2人が何を話しているのかは分かっていない。

「・・・・・せる」

「ん? 何て言ったの?」

「すぐに痩せる」

「へっ?」

「はあああああああああああ!!!!!」

 シルファは、拳を握り軽く膝を曲げて体に力を入れていく。

「ど、どうしたの? シルファ」

「おい、エレナ、貴様何を言ったんだ」

「いや~、ちょっとからかっただけなんだけどな~」

「はあっ!」

 気合いの入った声が聞こえた次の瞬間、パンパンに膨れていたお腹が凹みいつもの綺麗なシルファがそこに立っていた。

「ふぅ~~」

「シルファ、大丈・・・」

「主殿、元の姿にきちんと戻れました。だから、私を捨てないで下さい!」

 いきなりシルファに抱きつかれて、優気は困惑する。

「えっ? えっ? 何の話し? エレナ、何か言ったの?」

「いやいや、私捨てられるとまでは言ってないから。優気がガッカリするかもとは言ったけど」

「うう~~、主殿~」

「よしよし、シルファは大切な家族だからそんな酷いことしないよ。ほら、泣かないで」

 涙を流すシルファの頭を撫でて落ち着かせる優気。

 シルファは涙を拭い、優気から離れる。

「すみません、お騒がせしました」

「落ち着いた?」

「はい、主殿」

「それじゃあ、今度こそお店を出ようか。ギルドに報告をしに行かないといけないし」

 優気は、最後に忘れ物が無いかチェックをする。

 店を出る前にカルマとエレナは、どうしても確認しておきたいことがあった。

「優気様、少し待って下さい」

「どうしたの? カルマ」

「なあ、シルファ。貴様、大きく膨れていた腹はどうした?」

「ん? 凹ませたが?」

「いや、どうやって? 私もカルマも凄く気になっているんだけど」

「何だ、そんなことか。決まっているだろう」

「どんな方法なんだ?」

「“気合い”だ」

「・・・そうか」

「えっ? カルマは納得したの? 私は、今の説明じゃ納得出来て無いんだけど」

「良いか、エレナ。シルファが“気合い”と言った以上、それ以外の説明は無い。そういうものだと納得するしかないのだ」

「嘘、流石にそれは・・・・ねぇシルファ、“気合い”で痩せたなんて冗談でしょ?」

「? 何か可笑しかったか?」

「あははは・・・ごめん、カルマが正しかったわ」

 色々と言いたいことがあったカルマとエレナだったが、これ以上追求しても無駄だと分かった。

「う~ん、僕には真似出来ないな」

「優気様、お願いですから真似しないで下さい」

「私達だって出来ないからね。シルファが特別なだけ」

「特別、良い響きだ」

「今のは褒めたわけじゃないから」

 シルファのお腹が一瞬で凹んだ理由は謎に終わった。

 これからもこの光景を何度も見ることになるのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る