第28話 銀狼のお気に入りのお店は、吸血鬼も絶賛していました


 優気達は街に戻った後、依頼の報告をする前にガリアの店に行って夕食を食べることにした。

 どうして先に食事をすることにしたのかというと、シルファが空腹で倒れそうになっていたからだ。

「何これ!? 凄く美味しい!!」

 テーブルに並んだ料理をシルファが勢いよく口に入れていく隣で、エレナもガリアが作った料理を食べていた。

「久々の外での食事だけど、こんなに美味しい物食べれるなんて幸せ~~」

「はっはっは、嬉しいこと言ってくれるじゃないか、姉ちゃん。優気の兄ちゃんの新しい仲間かい?」

「そう、私はエレナって言うの。あっ、これも美味しい!」

「俺は、ガリアだ。この店で店主をやっている。これからも贔屓に頼むぜ」

「勿論、こんな美味しい料理を出してくれるお店だもの。優気が嫌だって行っても無理矢理連れて来るわ」

「おい! 貴様、優気様に対して何を言っている」

「がっはっはっは、面白い仲間が増えたな!」

「はい、とても頼りになる仲間です!」

「賑やかなのは良いことだ! うちの店もお前らが来たら明るくなって良いぜ!」

「へんしゅ、ほかわりほふぁのめるふぁ(店主、おかわりを頼めるか)?」

「シルファ、お前はまたそんなに口に食べ物を詰め込んで」

「ほひひいひょうりふぁふぁりふぁす、ふぇんふゅあふぁるひ(美味しい料理ばかりだす、店主が悪い)」

「貴様が何を言っているのか、全く分からないのだが?」

 カルマに注意をされても尚シルファは口いっぱいに料理を入れている。

 呆れているカルマを横目にシルファは1度口の中の物をゴクンと飲み込み、もう一度話した。

「ここの料理はどれも美味しいのでな、遂掻き込んでしまうのだ」

「それは分かるが、もう少し行儀良くだな」

「でも、僕もシルファの気持ち分かるな」

「ほらみろ、カルマ。主殿も同じ気持ちではないか」

「優気様は、良いのだ。特別だからな」

「僕の事も、怒ってくれて良いんだけどな」

「いえ、それは出来ません」

 優気達のやりとりを見て、はっはっはと豪快に笑うガリア。

「本当に面白い奴らだな。美味しそうに食べてくれるお客さんを見れるのは、嬉しい限りだ」

「そう言えば、今日はリンネさんはいらっしゃらないんですか?」

「ん? ああ、娘には買い出しに行って貰っているところだ。もう少ししたら帰ってくると思うが」

「そうなんですね。前に来たときは機嫌を損ねてしまったようだったので、謝っておこうと思ったのですが」

「あれは、リンネが迷惑を掛けたんだからお前が謝る必要はないだろう」

「いや、その事じゃなくて店を出る前にも怒っていたみたいなので」

「・・・それなら気にしなくて良い。リンネが戻って来たら呼んでやるから、今はゆっくり食事を楽しんでくれ」

「はい、分かりました」

「おかわりって言っていたよな、ちょっと待っていてくれ」

 優気は、一瞬ガリアが優しくフッと笑みを浮かべたように見えた。

 ガリアは、シルファが頼んだ料理を作るために厨房の方に向かっていった。

「何か、一瞬ガリアさんの雰囲気が変わったような」

「そう? ずっと豪快な感じだったけど?」

「気のせいかな?」

「それより、優気、あんたちゃんと食べてる? この料理も美味しかったわよ」

「本当だ、美味しそう!」

「ほら、口を開けて私が食べさせてあげるから」

「えっ!? い、良いよ。自分で食べられるから」

「遠慮しないの、ほら、ア~ン」

「エレナ! 優気様が嫌がっているではないか、今すぐやめろ」

「ええ~~、優気は照れているだけで、嫌がってなんか無いわよね?」

 エレナは、優気の腕に抱きつき笑顔で見つめる。

 いきなり抱きつかれた、優気は脳が一瞬停止した。

 その様子を見たカルマは席を立ち、エレナを優気から引き離そうとする。

「ええい! 優気様から離れろ~~!!」

「何よ~! 自分のご主人様に甘えているだけじゃない?」

「ふ、2人とも落ち着いて、あ、後エレナは離れて欲しいかも・・・」

「ふぁっはふ、ひょふひひゅうふぁほ、ほひふいふぇふぁへはらほうふぁ(全く、食事中だぞ、落ち着いて食べたらどうだ)」

「シルファ、せめて貴様は口の中の物を無くしてから話すようにしろ」

「そ、そうね、何を言っているか分からないもの」

「むっ? ・・・それは、悪かった。次からは気を付けよう」

「ああ、是非そうしてくれ」

 シルファとエレナの相手で、食事中にも疲労が出て来ていたカルマを少し心配しながら優気は今の時間を心から楽しんでいた。

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