第17話 1日に2回も大声をだすなんて思いませんでした

 3人の朝は、優気の悲鳴から始まった。急いで駆けつけた係の人に、何でも無いと言い優気は宿を飛び出した。

「ご、ごめんね。2人とも」

「いえ、問題ありません。驚きはしましたが、何もなくて良かったです」

 優気が悲鳴を上げた理由は、朝目覚めたら目の前にカルマがいて、慌ててベッドから出ようとしたら裸になっているシルファが優気の腕にくっついていたので、あまりの衝撃で声を上げてしまった。

「そうです、主殿に何も問題無くて良かったです。ふぁぁ~~」

「シャキッとしろ! 大体お前があんな格好で優気様に抱きついていたのが原因だろうが」

「そうは言うがな、主殿にくっついて寝ると不思議と体がポカポカと暖かくなってとても心地良いのだ」

「た、確かに、それは認めるが、せめて服は着ろ。優気様が困ってしまうだろう」

「そうなのですか?」

 シルファは、申し訳なさそうに優気を見る。それに、気付いた優気は恥ずかしそうに少し笑って返す。

「う、うん、ちょっと女性の裸を見るのは刺激が強すぎるかなって・・・それに、自分の体は大切にして欲しいから、簡単に裸にはなって欲しく無いかな」

「失礼ですが、私は主殿以外に気を許すことはありません」

「えっ・・・///」

 不意に顔を近づけられた優気は、綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめられてドキッとしてしまった。すぐに、カルマがシルファを引き剥がして注意した」

「近いぞ、馬鹿者、優気様が困っているだろうが」

「何だ、お前だって朝主殿の顔に自分の顔を近づけていたじゃないか」

「ち、違う! あれは、偶然、ああなってしまったのだ! 私の意思では無い!」

「なら、お前は主殿に触れたいとは思わないのか?」

 シルファに言われた一言で、カルマの体温が急に上がり顔も赤くなっている。2人の会話は、優気が自分を落ち着かていたので聞かれてはいなかった。

「そ、そんなこと、あるに、きまって・・・」

「ん? どうした? 何か言ったか?」

「何でも無い! さあ、優気様、早くギルドに向かいましょう!」

「あ、う、うん」

 カルマは、自分の熱が引くまで優気の前を歩いて誤魔化した。その様子をシルファは、少し呆れた様子で見ていた。

 朝早くに来たつもりだったが、ギルドにはすでに多くの冒険者が来ていた。依頼を達成したことを報告しに行こうとしていると、エルを見掛けたので挨拶をしにいった。

「おはようございます、エルさん」

「おはよう、優気君、昨日はゆっくり休めたかな」

「はい、エルさんがオススメしてくれた宿とても良かったです」

「そうかい、それは良かった。今から依頼の報告かい?」

「はい、そうです」

「簡単な依頼だったろうが、それでもやったことに意味がある。自身を持っていってくるといい」

「はい! いってきます!」

 エルと別れ、受付に行って報告をしにいく。ちょうど、空いたところに行くと昨日会った職員のリアだった。

「あら? あなたは」

「昨日は、対応してくれてありがとうございました。依頼の報告に来ました」

「そうなんですね、冒険者デビューおめでとうございます。それと、昨日は申し訳ありませんでした」

「どうして、謝るんですか?」

「いえ、冒険者に成るのはその人の自由なのに、その、貴方の職業を見ただけで止めておいた方が良いのではと考えていたので」

「それなら、気にしないで下さい。リアさんは心配してくれたんですよね?」

「はい、冒険者は危険で死者も出てしまうこともありますから」

「ありがとうございます、でも、自分で決めたので大丈夫です」

「そうですか。それでは、これからは精一杯サポートさせて頂きます」

「よろしくお願いします」

 リアは、昨日優気のギルドカードを作る際のことで少し罪悪感があったようだが、素直に謝り、優気が許すことで心が軽くなったようだ。

 早速、本題に入っていく。

「それでは、依頼を確認しますね。優気さんは、薬草の採取でしたね。薬草の数が10あれば依頼達成になります」

「あの、依頼より多く採取出来た場合ってどうなりますか?」

「数にもよりますけど、本来の報酬にさらに上乗せした金額を用意します」

「えっと、それじゃあとりあえず出しますね」

 優気は、アイテムボックスから昨日白虎から貰った薬草を全てその場に出した。いきなり、大量の薬草が出て来たことで、ギルドの中がざわつき始めた。

 リアも驚いて、少し固まっていたがすぐに優気に確認を取った。

「す、凄いですね。これ全部採ったんですか?」

「は、はい、もちろん協力してくれた人達がいますけど」

「いえ、いくら協力者がいたとしても、これほどの薬草を1度に採るのは無理ですよ。それこそ、森の中に詳しい者が何人もいないと」

「あはは、そうなんですね~(実際、採ったのは白虎のことを心配していたモンスター達だしね)」

 白虎から貰ったものだとバレ無いか、内心怯えていた優気だったが特に疑われる事無く、薬草の確認が始まった。

「これだけの数があると、かなり時間が掛かりそうですね。すみません、また後で来てもらえますか? 夕方までには終わると思いますので」

「分かりました、お願いします」

「こちら、本来の報酬です。先にお渡ししておきますね」

「良いんですか?」

「はい、品質も問題無さそうなので大丈夫です。それに、初めての依頼を達成した感覚を味わいたくは無いですか?」

「はい! ありがとうございます!」

 急いで、カルマとシルファの所に戻った優気はすぐに報告をした。

「やったよ、2人とも! 無事、依頼達成だって!」

「おめでとうございます、これも優気様の頑張った成果ですね」

「流石です、主殿」

「ううん、カルマとシルファ、3人で達成した依頼だよ、やったね!」

 無邪気に笑う優気につられて、2人も一緒に笑った。

「それより、思ったより報酬は貰えなかったのですか? 依頼よりもかなり多くの薬草があった筈ですが」

「それが、多すぎたみたいでまた後で来て欲しい言われたんだ。だから、また夕方来よう」

「そうでしたか、優気様の偉業を受け入れられない場所なら燃やしてしまうとこらでした」

「や、やめてね、カルマ」

「そういう事なら私も力を貸そう」

「シルファもそんなこと言ったらダメだよ。それより、何か食べに行こうか」

「それは、とても良いご判断です、主殿」

「全く、貴様という奴は」

 優気の言葉で食欲が急に湧き上がってきたシルファの目はキラキラと光り、涎も垂れてきていた。その様子を見た、カルマは呆れて頭を抱えていた。

 優気達は、ギルドを出て昼食を食べた後、そのまま街の中を歩いて回り、夕方ギルドに向かった。

 ギルドに入ると、エルとリアが話していた。2人は、優気に気付くとすぐに近寄って来て、リアが少し興奮気味に話しかけてきた。

「優気さん、おめでとうございます!」

「えっ、えっ、何の事ですか?」

「あっ、すみません、あまりのことに私の方が興奮してしまって、実はですね」

 優気は何を言われるのかと考え、生唾をゴクッと飲み込み、リアの言葉を聞いた。

「優気さんの冒険者ランクが上がったんですよ!」

「・・・ええ~~~~~~~~~~~!!!!!!」

 リアからの報告があまりに衝撃的だった優気は、人生で一番の大声を出した日になった。


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