第16話 部屋は分けた方が良いけど、睡魔には勝てません

 白虎と色々話しをした優気達は、白虎に頼んで街に送って貰うことにした。

「それじゃあ、白虎お願いしても良いかな?」

「ああ、任せろ。また、いつでも来ると良い」

「うん、ありがとう」

「それじゃあ、私の背中に乗ってくれ」

 優気達は、白虎の言われたとおりに後ろに乗った。シルファだけは、少し不服そうにしていたが。

 落とされないようにと、しっかり捕まる優気。

「そんなに気張らなくても大丈夫だ」

「えっ?」

 白虎に乗った優気達の周りはいつの間にか霧に覆われていた。だが、すぐに霧は晴れていき、その先には街の入り口の前に優気達は立っていた。

「ど、どうなってるの?」

「わ、分かりません。さっきまで森の中にいた筈ですが」

「主殿、白虎も見当たりません」

 シルファに言われて気が付いた。確かに、白虎は何処にも見当たらず居なくなっていた。

「な、何が起きたのか正直分からないけど、とにかく白虎のおかげで街に着くことが出来たね」

「そうですね。流石は、四聖獣の一角と言ったところでしょうか?」

「私は負けない。主殿を乗せて走るのは私の役目だ」

 シルファが、対抗心をむき出しにしているのをなだめながら街の中に入っていった。

 すっかり、日が落ちていたがギルドの明かりはまだ付いていた。

「良かった、まだギルドは開いているみたいだね。依頼の受け付けもまだやってるかな?」

 ギルドの中に入ると、エルが不安な表情で立っているのが見えた。優気は、気になって話しかけてみることにした。

「エルさん、どうかしましたか?」

「優気君!? 良かった、無事だったんだね」

「はい? そうですね、何とか依頼を終えて戻って来ました」

「そうか、そうだったんだね。君達に渡した依頼は、時間がそんなに掛かる物じゃ無くてね。それなのに全然帰って来なかったから心配していたんだ」

「すみません、森に行ったら意外と薬草が見つけられなくて」

「気にすることは無いさ、初めての依頼だ、慣れない事の方が多かっただろう。それよりも無事に帰って来れたことが一番さ」

「ありがとうございます、一応依頼の薬草を採って来たんですけど・・・」

「一応、まだ受け付けているけど、今日はもう休んだらどうだい? 依頼の期限にはまだ余裕がある。明日、また来ると良い」

 確かに、初めての依頼というのもあるが1日で体験するのは十分に濃い1日だった。

「そうですね。それじゃあ、今日は一旦休もうと思います」

「宿は決まっているのかい?」

「あっ、そう言えばまだ探してませんでした。どうしよう」

「それなら私のおすすめの宿があるから行ってみると良い。部屋の数は多いからまだ空きがあるはずだ」

「分かりました。色々とありがとうございます」

「どういたしまして、それじゃあまた明日」

「はい、失礼します」

 ギルドを出た後、優気達はエルに教えて貰った宿に向かった。宿に入ると、若い男性が受付けをしていたので話しかけてみた。

「すみません、ここに泊まりたいんですけど、大丈夫ですか?」

「はい、まだ余裕がありますよ。一泊、一部屋で銅貨3枚になります。今夜だけにしますか? まとめて取ることも出来ますけど」

 今持っている所持金を見て、少し余裕があるので数日ここの宿を取ることにした。

「あっ、えっと、それじゃあ、一週間でお願いします」

「分かりました、部屋の数はどうしますか?」

「僕とカルマとシルファだから3部屋で・・・」

「1部屋でお願いします」

 優気の言葉を遮り、カルマが代わりに答えた。これには、優気も戸惑った。

「だ、ダメだよ。部屋は分けなくちゃ」

「そうですね、シルファの分を用意してやりましょう。つまり、2部屋ですね」

「どうして、私が別の部屋で寝なければいけないんだ。私が、主殿と一緒の部屋だ」

「貴様では、寝ている時に何かあっても気付かない可能性がある。そんなことでは、優気様を守れないからな。それに、貴様もいたら狭いだろう」

「僕の事は、気にしなくていいから、ね?」

「主殿もこう言ってくれている。3人一緒でも構わないということだ」

「ふむ、優気様がそういうのであれば仕方無い。係の者すまない、部屋は1部屋で大丈夫だ」

「分かりました、ご案内いたします」

 カルマとシルファの勢いに間に入れず、いつの間にか決まってしまった。

「気にしないでって言ったのは、僕が男だから別れて寝ようって・・・話し・・・だったんだけど」

 残念ながら優気の言葉は届かず、3人一緒の部屋に泊まることになった。

 部屋についてから荷物の整理をしながら優気は、迷っていた。

「(う~ん、やっぱり今からでも部屋を増やして貰うべきかな、女の子と一緒に寝るのは良くないよね)」

「優気様、どうかしましたか?」

「えっと、カルマとシルファは女の子だし男の僕と一緒に寝るのは問題あると思うから、やっぱりもう一つ部屋を取らない?」

「私は気にしません」

「私も気にしません。それより、主殿から離れる方が辛いです」

「うっ、そう言われると断り辛いけど」

「それに、優気様。失礼ですが、野宿をした際に私達は1度一緒に寝ている事になると思うのですが」

「・・・はっ!? た、確かに。いや、でも~・・・」

「主殿は、私達が近くにいると困るのですか?」

 カルマもシルファも悲しそうな表情で優気を見てくる。そんな2人を見て優気が断れる訳も無く・・・。

「わ、分かったよ、一緒の部屋で寝よう」

「ありがとうございます、優気様。それでは、今日はもう休むとしましょう」

「そうだね、早く寝てちゃんと体力を回復させておかなきゃ・・・あれ?」

「どうしました? 主殿」

「えっと、ベッドは1つしかないのかな?」

「そのようですね。仕方ありません、私とシルファは床に寝るとしましょう」

「だ、ダメだよ、僕が床に寝るから2人がベッドで寝て?」

「それは、ダメです。優気様がベッドを使って下さい」

「う~ん、そうだ。2人は、ベッドで寝たこと無いでしょ? せっかくだから使ってみてよ」

「主殿、そんなにベッドで寝るのは良いものなのですか?」

「う、うん、そうだよ。ベッドで寝たらぐっすり眠れるよ」

「なるほど、それでは3人一緒に寝ましょう」

「い、いや、それは、その」

「ふむ、そうだな、一緒に寝れば問題ありませんね」

「カルマっ!?」

「それと、申し訳ありません、主殿。もう眠くて・・・げん・・・かい」

 糸が切れたように倒れてきたシルファを受け止めようとした優気だったが、そのままベッドに倒れてしまった。

「し、シルファ!? ごめん、カルマ、ちょっとこっち来て」

「分かりました。それでは、失礼します」

 優気は、シルファを一緒に動かして貰おうと思ってカルマを呼んだのだが、カルマは2人のベッドに入って来た。

「か、カルマ、僕の説明が悪かったよ。だから、ごめん、一旦どいてもらえないかな? 僕が床で寝るから」

「すーー、すーー」

「ど、どうしよう、2人とももう寝ちゃった」

 1つのベッドで3人乗っているため、距離が近く寝息も聞こえてくる。優気もこの状況に困惑していたが、疲れがかなり溜まっていたのか、いつの間にか寝てしまっていた。

 3人の寝顔は、どれも幸せそうな寝顔だった。


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