第14話 助けたのは四聖獣と呼ばれる存在でした

 依頼を達成する為に森の奥まで進んでいた優気達は、弱り切った存在に出会い、優気は急いで回復魔法を掛けた。回復魔法によって、元気を取り戻した存在は驚きを隠しきれていなかった。

「体が自由に動く。不思議だ、あれほど辛かった体の痛みが嘘のように消えている」

「どうですか? もう痛いところはありませんか?」

「ああ、ありがとう。もう、大丈夫だ」

「良かった~。でも、どうしてあんなにも弱りきっていたんですか?」

「ふむ、少し前に人間によって傷を付けられてな。恐らくそれが原因だろう」

「あっ・・・」

 人間という言葉を聞いて、下を向き自分が傷つけてしまったかのように落ち込む優気。

「本当に不思議な人間だな。別に君が私を傷つけた訳では無いだろう。むしろ、私を助けてくれたではないか」

「それは、・・・そうなんですけど」

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな。良ければ、教えて貰えないだろうか?」

「はい、僕の名前は優気と言います。えっと、あなたは」

「おお~、これは失礼した。人の名前を聞いておきながらまだ自分の事を話していなかったな」

 体が回復したおかげか、優気にも感じられる程の大きな存在感を放つ存在は、腰を下ろしながらも姿勢を正し、優気の眼をしっかりと見ながら答えた。

「私は、白虎。この世界を守護する者の一体だ」

「「白虎!?」」

 白虎という名を聞いた瞬間、カルマとシルファが同時に驚きの声を上げ、シルファは人の姿に戻っていた。

「白虎、まさか本当に?」

「ありえない、あれはただの伝説で実在するものでは無かったはず」

「はっはっは、驚くのも無理は無い。人の前はおろか動物やモンスター達の前に現れることはほとんど無かったからな」

「2人は、白虎さんのことを知ってるの?」

「はい。あくまで伝説として語られているものなのですが、この世界には四聖獣と言われる存在がいて、過去に世界が壊れる程の大きな厄災が起きた時に世界を守った事があると。しかし、実際にそのような厄災が起きたという事実が記された物は無く、伝説として語られるようになっていました」

「私も、カルマと同じようにその伝説は聞いた事があります。しかし、私が聞いた伝説では四聖獣は皆、不老不死でどんな傷も付けられることは無いと聞いていたのですが」

「私だって、生き物だ。歳も取るし、強者と戦えば傷も負う。歳を取れば寿命で死ぬこともある。傷を負い治すことが出来なければ、死んでしまう。伝説などと言われているが、私も他の生き物達と変わらぬよ」

「白虎さんは、凄い方なんですね」

「私の事を救ってくれた者が、そんな仰々しい呼び方をするな。白虎と呼んでくれ」

「ええっ!? それって、大丈夫なんですか?」

「本人が良いと言っているんだから、気にするな。ああ、優気の後ろにいるお前達2人もだぞ」

 白虎の存在をまだ実感しきれていないのか、返答することが出来ず2人とも少し固まっていた。

「えっと、カルマもシルファも白虎・・・の事をまだ上手く処理しきれていないみたいです」

「そっちの九尾がカルマで、銀狼の方がシルファだな。それと優気、敬語も必要ないぞ?」

「えっ? 分かりました、じゃなくて分かったよ」

 優気は、正直戸惑いながら返事を返した。カルマとシルファの驚き様を見て、白虎がどれだけ凄い存在なのか何となくは分かっている為、出来れば敬語無しで話す事はしたくなかったが、白虎が満足そうにしているように見えたので頑張って話す事にした。

「うむ、こうやって敬語無しに対等な感じで話すのも久しぶりだな」

(僕、流石に対等だとは思えないんだけど・・・)

「しかし、改めてみると不思議な組み合わせだな。人間と九尾、そしてフェンリルか。本来相容れない者同士の筈だが、一体どういった関係なのだ?」

 優気が、カルマとシルファの方を見るとまだ2人は固まっていた。その様子を見た優気は、白虎と話す事に緊張して強張っていた表情を柔らかくして、2人の手を握って自分の近くに引き寄せた。

「この2人は・・・僕達は家族なんです!」

 優気の『家族』という言葉に驚き少し目を大きくした白虎だったが、優気の満面の笑みと先程まで固まっていたカルマとシルファも表情が明るくなったのを見て、何処か温かい気持ちになっていた。

「そうか、家族か」

「はい!」

「優気は、本当に不思議な人間だな。私の事も迷わず助け、種族の違う者達の事を家族という」

「僕、おかしいでしょうか?」

「他の人間からすれば、おかしいと思われるかかもしれないな。しかし、それが間違ってるなんて事は無いから安心しなさい」

「うん! ありがとう、白虎!」

「何も、礼を言われる事は言っていないさ。優気、お前達の事詳しく聞かせて貰っても良いか?」

「もちろん、良いよ。白虎が聞いて面白いと思うかは分からないけど」

「構わんよ。優気達の話しを聞くことが大事だからな」

 優気は、白虎に今までの事を詳しく説明した。自分が転生者であること、カルマとシルファに出会った事、そして白虎の存在に気づいたのは依頼の為に森の奥に入ったからだということを。

 白虎は、静かに話しを聞き軽く相づちなどをうっていた。いつの間にか元気を取り戻したカルマとシルファも話しに混ざって、自分達がどういう風に優気と出会ったのかを話していた。

「そうか、優気は転生者だったか。ならば、私を完全に治せる程の回復魔法を使えても不思議は無いな」

「えっ? 僕の回復魔法ってそんなに凄いの?」

「はっきり言えば、私、私達四聖獣の傷を治すことなどは不可能なのだ」

「どういうこと?」

「そもそも、四聖獣に傷を付ける程の存在がこの世界にはいないということ。傷を負わなければ治す必要がないからな」

「なるほど」

「もう一つは、四聖獣の傷を治せる魔法や薬草が存在しないこと。四聖獣は、他の生き物とは体の仕組み違っていてその為万物に効くと言われる薬草でも治る事は無いんだ。まあ、今ここにいるモンスター達は私の為に多くの薬草を採ってきてくれていたようだがね」

「それで、ここに薬草がたくさんあるのか。あれ? でも、どうして僕は白虎の事を治す事が出来たんだろう」

「恐らくだが、転生したお前に神様が特別な力を与えていたのかもしれない。まあ、私は神という存在にあったことが無いから分からないが、そう考えた方が納得がいく」

「そうか、確かにそうかもしれない。カルマやシルファ、白虎を救うことが出来たのも全部神様のおかげだったんだね」

「それは、違いますよ、優気様」

 白虎の考えに納得いっていた優気に、おでこが触れあうほどにカルマが顔を近づけてきた。優気は、目を逸らしたり離れることはしなかったが、あまりの近さに心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

「ど、どういうこと? カルマ」

「確かに優気様の力は、神から授かったものかもしれません。しかし、それをどう使うか決めたのは優気様自身です。私は、貴方が助けてくれなければ今頃死んでいたかもしれないんです」

「私も、主殿が救ってくださら無ければずっと孤独のままでした」

「でも、困っている人がいたら助けるのが当たり前だよ」

「優気、お前は当たり前だというが、助けたいと思いそれを実行出来る者は少ない。ましてや、自分の事を傷つけるかもしれない存在を助けるなら尚更だ」

「あ、ありがとう。そんな風に言われた事無いから何だか嬉しいな、へへっ」

 見返りを求めてやった訳では無い。両親が困っている人を助ける人達だったから自分もそうありたいと願っていただけ。でも、願うだけで行動に反映されているかは分からず不安な部分もあった。

 異世界に転生して、まだ2日、冒険者にも成り立てで何か偉業を達成した訳では無い。それでも、カルマとシルファ、そして白虎の言葉を聞いた優気は優しい表情を浮かべながら少し目頭が熱くなっていた。

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