第13話 簡単な依頼というのは意外と簡単にいかないみたいです
優気達は、街を出て少しした所にある森の中にいた。依頼に書いてある薬草は、この森の中で見つける事が出来るらしい。
「よし、それじゃあ、早速薬草を探していこう!」
「張り切っておられますね、優気様」
「うん、初めての依頼だからね。きちんとこなして冒険者としてやっていける自身を付けていかなきゃ」
「そうですね、私達もご協力させて頂きます」
「ありがとう、2人がいれば心強いね」
気合い十分で依頼に望む優気。辺りを見回していたシルファが、優気に近づき依頼について聞いてきた。
「主殿、薬草というのはどういった物を集めれば良いのでしょうか?」
「えっと、ちょっと待ってね。確か、依頼の紙に絵が描いてあった筈・・・見た目はこんな感じだって」
優気は、たたんでズボンのポケットにしまっておいた紙を広げてカルマとシルファにも見せた。
「見た目は、お花みたいな感じなのかな? 花びらが5枚くらいあって、茎からは花びらと同じように葉っぱが生えているみたいだね」
「注意事項に根っこまでしっかり回収するように書いてありますね」
「あ、本当だ。よく気付いたね、カルマ」
「たまたま、眼に入って来ただけですよ」
「主殿、一通りこの辺りを見てみましたけど、その絵に描かれているような物は生えていませんでした」
「そっか、まだ森に入ったばかりの場所だし、もう少し奥に行った方が良いのかもしれないね」
「どうしますか? もう一度調べ直してきましょうか」
「ありがとう、シルファ。でも、自分でもしっかり探したいからもう少し奥に行ってみよう。2人とも大丈夫?」
「はい、問題ありません。モンスターがいる気配も無いので戦闘になる心配も無いかと」
「私も大丈夫です。カルマと同じで近くに生き物の気配は感じられません」
「よし、それじゃあ、もう少し進んでみようか」
薬草が近くに無い事を知った優気は、カルマとシルファの意見を参考に森の奥の方にもう少し進むことにした。
奥に進みながらも、目的の物が無いか探しながら進んで行く。
しかし、森の中に入ってそれなりに時間がたったのに対して薬草が1つも見つからず、優気が思っているよりもかなり森の奥に入っていた。
「おかしいな、エルさんの話しだとすぐに見つかる感じだったのに、これだけ探しても1つも見つからないなんて。カルマとシルファはどう?」
「・・・」
「・・・」
「2人とも、どうかしたの?」
2人の返事が返って来ないのが気になり、四つんばいになって薬草を探していた姿勢から立ち上がってカルマとシルファがいる方を見る。
すると、2人は何かを感じたのか同じ方向をじっと見つめていた。不思議に思った優気も2人が見ている方に目を向けてみた。かすかにだが、優気にも何かがいるような気配を感じた。
「この先に、何かいるのかな?」
「優気様も気付きましたか? 私も不思議な感覚です。確かに気配は感じますが、モンスターとは少し違うような」
「あまり、危険な感じはしませんね。というよりも、これは・・・」
「弱っていますね」
「えっ? それじゃあ、助けにいかなきゃ」
「お待ち下さい、優気様。どのような相手か分からずに行くのは危険です。それに、ここまで見なかったモンスター達もそこに集まっているようです」
「でも、放っては置けないよ」
「しかし、優気様、もう少し慎重に・・・」
すぐに助けに行こうとする優気を止めようとするカルマ。その様子を見ていたシルファが、いきなりフェンリルの姿に戻り優気とカルマを自分の背中に無理矢理乗せた。
「うわわ、し、シルファ?」
「この馬鹿銀狼、いきなり何をする!」
「私達は、この優しさに救われたのではなかったか?」
「そ、それはっ・・・」
「心配せずとも、集まっているモンスターの力量は大体分かる。お前と私がいれば十分に優気様を守れる」
シルファの言葉を聞き、カルマはまだ何か言いたげにしていたが、ぐっとこらえ口を閉じて下を向いた。
優気は、カルマを心配して何か言おうとしたがその前にシルファが走り出し、言葉を出す事が出来なかった。
「主殿、弱っている気配は、モンスター達に囲まれています。それを飛び越えて突破するのでしっかり捕まっておいて下さい」
「う、うん、分かった」
森の中を器用に走っていくシルファだったが、それでも葉っぱや小枝などが飛んでくるので優気は片方の腕を顔を覆うようにして、顔に当たらないようにしていた。
走り出してすぐに、開けた場所が見えてきた。確かに多くの影が確認出来る。シルファは、大きくジャンプし、優気とカルマは振り落とされないようにしていた。
シルファが、見事に地面に着地すると様々なモンスターが目の前にいた。その多さに驚いていたが、モンスター達もいきなり現れ優気達に驚いていた。
優気は、弱っている気配の存在に気付いた。後ろを振り向くと、そこにはフェンリル姿のシルファよりも更に大きな体をした生き物がいた。目を閉じ横になっていたが鋭い牙と鋭い爪、体には白と黒の縞模様があることは確認出来た。
その存在感に思わず圧倒されていると、モンスター達が優気達を敵だと思い攻撃を仕掛けようとしてきたその時、重く低い声が聞こえてきた。
「止めろ、お前達」
その声を聞いたモンスター達は皆、その場から動かなくなった。
「この者達は敵では無い。そうであろう?」
「は、はい、あなたが弱っているのでは無いかと思い助けたくて、ここに来ました」
「・・・名を聞いても?」
相当弱っているのか、辛うじて優気を視界に入れているが体は横になったままでいる。声も弱々しい。
「僕の名前は、優気と言います」
「優気か、来て貰って悪いが私は恐らく助からない」
「何を言っているんですか、諦めたらダメです。何処が悪いのか教えて下さい。もしかしたら、治せるかもしれません」
「そこにいる者達も、必死に助けようとしてくれた。私の為に多くの薬草を採ってきてくれた。しかし、効果は無かった」
よく見ると、依頼の薬草が山のように積み上げられている場所があった。
「もしかしたら、薬草じゃ治せないものかもしれません。何が原因か分かりませんか?」
「さあ、どうだったかな? もう覚えていない」
「と、とにかく、回復魔法を掛けます」
「無駄だ、お前の魔力が減るだけだ」
優気は、そんな言葉を聞かず集中してヒールを掛けた。すると、今まで力なく倒れていた存在がしっかりと眼を開き、ゆっくりとその体を起き上がらせた。
「うおおおーーーーー!!!!」
大きな雄叫びを上げて、起き上がった姿を見てモンスター達は歓喜した。
「ど、どうなっている? 私は、確かに瀕死の状態だった。きっと、助かるはずが無いと思っていたのに」
「どうですか? 元気になりましたか?」
「優気と言ったか、お前は一体何者なのだ?」
「えっ? 何者と言われましても、今日冒険者に成ったばかりの者です」
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