第11話 美味しい料理を食べるのに理由はいらないと思います

 優気達は出て来た料理を全て完食し、さっきまで空腹で倒れていたシルファは幸せな表情を浮かべていた。

「ふぅ、生き返りました~」

「シルファが、元気になって良かったよ」

「一体どれほど腹を空かせていたのやら、出来てきた料理が魔法のように消えていっていたぞ。おかげで優気様の分がかなり減っていた」

「なっ!? す、すみません、主殿。夢中になってしまい思わず・・・」

「大丈夫、心配しなくても僕もお腹いっぱい食べたから」

「そ、そうですか? 本当に申し訳ありませんでした」

「ここの料理美味しかったもんね。たくさん食べたくなる気持ち分かるよ」

「ええ! 最高でした! どの料理も絶品で、思い出すとまたお腹が空いてきそうです」

「まだ、入るのか。お前の胃袋はどうなっているんだ」

「カルマは、どうだった?」

「はい、味が美味しかったのももちろんですが料理が出て来る間隔も丁度よく、十分に満足したと言えますね」

「皆が満足出来る食事が出来て良かったよ」

 食事が終わり、それぞれ感想を述べているとガリアが近づいてきた。

「どうだ、この店の料理はあんたらの口にあったか?」

「あっ、店主さん。はい、どの料理も美味しかったです」

「おお、それは良かった。それと、俺の事はガリアって呼んでくれ」

「分かりました、ガリアさん。それで、代金の方は・・・」

「それなら気にしないでくれ、今回は無料ただで良い」

「えっ!? どうしてですか?」

「どうやらうちの娘が随分と迷惑を掛けてしまったみてぇだからな。その詫びとして貰えると助かる」

「でも、流石に無料ただって訳には・・・」

「優気様、ここはお言葉に甘えましょう。店主もその方が気が楽になるでしょうし」

「う~ん、そういう事なら」

 納得しきれていない様子の優気だったが、カルマの言うとおり、今回はご馳走して貰ったと考えるようにした。

「悪いな、本当はちゃんとリンネ本人に謝罪させたかったんだが『私は悪くない』の一点ばりでな」

「リンネさんというのはさっきの女性の方ですか?」

「ああ、そうだ。こう見えて俺はあいつの親父でね。あまり似てないだろ?」

 そう言うガリアの顔とリンネの顔を思い出す。確かに外見は、あまり似ているとは言えない。

「確かに似てないな」

「全く似てない」

「こらっ! 2人とも!」

「はっはっは! 正直に言ってくれるじゃないか。あんたの仲間は」

 ガリアは、豪快に笑いながら優気の背中を大きな腕でバシンっ、バシンっと叩く。驚いた優気だったが、音に対してあまり痛くは無かった。

「す、すみません」

「いや、良いんだよ。昔から言われているし、俺自身も思っていることだからな。リンネは、母親似なのさ」

「へぇ~、そうなんですね。その、リンネさんのお母さんもここで働いているんですか?」

「ああ。正確には、働いていた・・・だけどな」

「えっ? それは、どういう・・・」

 ガリアの表情が少し曇ったように見えた優気が話しを聞こうとすると、厨房のドアが開きリンネが出て来た。店に入った頃よりは落ち着いたように見えたが、それでも怪訝そうな表情をして優気達の方に近づいて来た。

「親父、皿洗い終わったぞ」

「そうか、早かったな」

 リンネは、優気に向かって睨み付けるような視線を送り言葉を発した。

「食事は済んだんでしょ? それなら、無駄話してないで早く店から出て行ってくれる?」

「おい、リンネ! お前、また」

「あ、すみません、もしかして今から混み出す時間ですか?」

「はっ? 何言って」

「そうですよね、これだけの美味しい料理が食べられるんですからお客さんもたくさん来ますよね」

「おい」

「えっと、忘れ物無いよね。そんなに物がある訳じゃないけど・・・」

「お前、馬鹿にしてるのか?」

 リンネは、怒りを押し殺したような声を出し、拳を強く握りしめていた。

 優気は、リンネの様子に気付かず店を出る準備を進めている。

「あっ、そうだ、ギルドカードは・・・よし、ちゃんと持ってる、大丈夫だ」

「人の話を聞け!」

「えっ!? ど、どうしました?」

「お前、この店に本当に客が来ると思っているのか?」

「おい、リンネいい加減に」

 優気の言動に我慢が出来なくなったリンネは大声を出し、ガリアは今にも殴り掛かりそうなリンネを止めようとする。

「親父も気になっているだろ? どうして、客が誰もいない店にこいつらが入って来たのか。どうせ、また悪い噂を流す為に」

「美味そうな匂いがしたからだ」

 リンネの言葉を遮って答えたのは、優気でもカルマでもなくシルファだった。何の考えも無く本当に思ったことを口にしたシルファの言葉だった。

「美味そうな匂いがしたから?」

「うむ、ここに来るまでいくつか店を通って来たがこの店が1番だった。そして、味も絶品だった」

「そんな理由で」

「? 美味しそうな匂いがしたから、この店に料理を食べたいと思ったから入った、それだけではダメなのか?」

 シルファの言葉を聞いたリンネは、呆気にとられてしまい怒りも何処かに消えてしまっていた。ガリアは、先程のように豪快に笑い始め

「はっはっは! ダメじゃないさ! そう言って貰えて嬉しい限りだ!」

「うむ? そうか?」

「何か良く分からなかったけど、良かったねシルファ」

「お前も少しは役に立つみたいだな」

「どういうことだ?」

 優気とシルファが状況を整理出来ていない中、カルマだけが全体のことを把握していた。

「えっと、それじゃあ、僕達は行きますね。ご馳走様でした」

「おっと、待ってくれ。あんたらの名前を聞いて無かった。教えてくれるか?」

「あ、そう言えば、僕は優気です」

「私は、カルマだ」

「シルファ」

「よし、覚えたぜ。また、来てくれよな」

「良いんですか?」

「もちろんだ」

「やったよ、シルファ。また、ここのご飯が食べられるよ」

「やりましたね、主殿」

 余程、ここの料理が美味しかったのか、優気とシルファはとても喜んでいた。そして、ガリアに挨拶をし、店を後にした。

 優気達が帰った後、リンネは椅子に座り天井を見上げていた。リンネの向かい側にガリアは座った。

「親父、あいつら変な奴らだったな」

「そうだな、今まで会った事の無い奴らだったな」

「噂のことあいつら知らなかったのかな」

「仮に知っていても普通に店に来てたんじゃないか?」

「そうかな」

 少しの間沈黙が続く。店の外は、まだ明るく賑やかな声も聞こえてくるが店に誰かが入ってくる様子は無い。

「また、来てくれるかな」

「どうだろうな。料理は、結構気に入ってくれていたみたいだけどな」

「・・・今日の事、ちゃんと謝れるかな」

「大丈夫、俺も一緒に謝ってやる」

「うん、ありがとう」

 リンネの謝罪したい気持ちを聞き少し驚いていたが、次に優気達が来た時は今日よりも腕を振るう必要があると思い、笑みを浮かべるガリアだった。



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