第10話 襲われ掛けたお店だけど料理は美味しい物でした

 優気がドアを開けた瞬間、優気の頭に何かが振り降ろされていた。優気が気付いたときにはすでに遅く、当たると思い優気は目をつぶった。しかし、何処にも痛みは無く恐る恐る目を開けるとカルマがいた。どうやらギリギリの所でカルマが守ってくれたようだ。

「あ、ありがとう、カルマ。助かったよ」

「いえ、ご無事で何よりです」

 カルマは、顔を優気の方に向けながら左手では何かを掴んでいた。カルマが掴んでいたのはフライパンを持った明るい髪の色をした少女の腕だった。

「くそっ、放せ!」

「放して欲しければ、優気様を襲った理由を言え。理由を言ったところで貴様が死ぬのは変わらないがな」

「・・・っ!」

 カルマの凄みに思わず言葉を失ってしまう少女。恐怖が少女の体に刻まれるようとされていることに気付いた優気は、慌ててカルマを止めた。

「ちょ、ちょ、ちょっとストップ! ストップ! 落ち着いてカルマ。僕は何処も怪我とかしてないからその人のこと放してあげて」

「分かりました」

 カルマは、少女の手をそっと放した。少女は、力が抜けたのかそのまま地面に座り込んだ。少女は、捕まれた場所を優しく触っていた。優気も心配になって、少女の腕をチラッと見てみたがアザが出来ている様子も無かった。相手を怖がらせてはいたものの怪我をさせないように力は抑えていたようである。

「どうするのかと思ったけど、ちゃんと加減していてくれたんだね」

「本当はあのまま腕をへし折ってやるつもりだったのですが」

「だ、ダメだよ。そんなことしたら」

「分かっています。優気様ならそういうと思ったので止めました」

「そっか、良かった」

 カルマは遂先程まで見せていた表情とは違い、とても穏やかな表情をして優気と話していた。優気も、カルマの雰囲気が穏やかになったのを確認して、ほっと一安心した。

「おい、お前らは一体何者なんだ? 何しにうちの店に来た?」

「えっ、僕らはここで食事をしたくて・・・」

「貴様、何だその態度は先程の行為を全く反省していないようだが、やはり痛い目に合わないと分からないか?」

「だから、ダメだってば! 相手を怯えさせないで!」

「す、すみません」

「僕らはここで食事をしようと思って店の中に入ったんですけど、もしかして今日休みでした? 一応営業中て書いてあったから中に入って来たんですけど」

「嘘を付くんじゃねぇよ」

「そんな、嘘なんか付いてませんよ」

「いいや、嘘だな。今じゃこの街に住んでいる奴でこの店に食事しに来る奴らはいないからな」

「そうなんですか? 美味しそうな匂いが外にいても流れて来たので是非ここで食事をしたかったんですけど」

「・・・お前、まさか本当に」

「おーい、帰ったぞー」

 優気がこの店に入ったことを少女に説明していると、男性の低い声が聞こえてきた。声のする方に行ってみると、体格が良く背の大きな男が店の中に入って来ていた。

「どうして、店の電気を消してるんだ? これじゃあ、店をやっているかどうか外から分からないだろう」

「あの~、すみません、このお店で働いてる方ですか?」

「ん? ああ、この店の店主をしているガリアって者だ。何か用かい?」

「実は、ここで食事をさせて頂きたいんですけど大丈夫ですか?」

「おお! お客さんだったのか! もちろん、大丈夫だ。少し、準備をするから待っていてくれ」

「ちょっと待てよ!」

 さっきまで優気達もいた部屋から少女は出て来るなり、ガリアに向かって怒声を浴びせた。

「何だリンネ、いたなら返事くらいしろ。ああ、そんなことより手伝ってくれ久しぶりのお客さんだ」

「そいつらは客じゃねぇ!」

「違うのか?」

「客だ」

 カルマが優気の代わりに即答する。

「客じゃねぇか」

「いいや、おかしい。あんな事があって普通に食事しに来るなんて変だ」

「あんな事?」

 ガリアは、リンネという少女の言葉に対してため息を吐き呆れるように言った。

「はぁ~、あのなぁ、どんな事があろうと、この店に食事をしに来てくれたのなら最高の料理を食べてもらう。それが、俺が心に決めてるものだ」

「だけど・・・」

 リンネが、まだ何か言おうとすると凄まじく大きなお腹の音が鳴った。ガリアとリンネもその音に驚き、優気達の方をバッと見る。

「あ、いえ、お腹は空いていますけど、今のは僕じゃ」

 ちらっと、カルマの方を見る優気。カルマは、自分のお腹を両腕で隠して恥ずかしそうに全力で否定した。

「わ、私でもありませんよ!」

 そうなると、後1人しか心当たりが無く優気はシルファの方を見ようとしたのだが、

「あれ? シルファは?」

 店に入るまでは一緒にいた筈のシルファの姿が見えない。店の中を見回すと、店の端の方で倒れているシルファを見つけた。

「し、シルファ!?」

 慌ててシルファに駆け寄る優気。意識はあるようだが、とても顔色が悪い。

「ど、どうしたの? シルファ。何処か苦しいの?」

「は、は・・・・」

「は・・・はっ!? もしかして、肺が痛いの?」

 動揺して冷静な判断が出来ない優気の耳に先程よりも大きく、更に近くで大きなお腹の音が聞こえてきた。

「は、早く・・・ご飯が・・・食べたい、うっ」

「ダメだよ、シルファしっかりして!」

「いえ、優気様、その狼はただ腹が空いているだけなので、そこまで慌てる必要は無いですよ」

 まるで生死を分ける戦いを終えた後の様な状態になっているシルファを心配する優気。その状況を冷静にツッコむカルマであった。

 ガリアとリンネは状況をまだいまいち理解出来ておらず、ただ優気達を見ているだけだった。

「うう~、お願いします~。何か、食べさせて下さい。お金はちゃんと払いますから~」

「お、おお、何かリクエストはあるか?」

「お任せでお願いします~」

「よし、すぐ作るから適当な場所に座ってくれ。ほら、リンネも手伝え」

「あ、うん」

 先程まで料理を出すことを拒んでいたリンネも優気達の様子を見て、正直どうしたら良いのか分からなくなっており、ひとまずガリアの手伝いをする事にした。

 それから、少し時間が経ち料理が運ばれてきた。とても良い香りが店中に広がっていく。目の前に置かれた料理を優気は、まずシルファに食べさせてあげた。

「ほら、シルファ、美味しそうな料理が来たよ。食べてみて」

「う、うう~」

「ほら、頑張って口を開けて」

 小さく開けられたシルファの口の中に料理を入れる優気。シルファは、ゆっくりと噛んでゴクン、と飲み込んだ。すると、次の瞬間、元気が無く閉じかけていた目が開き優気が持っていた料理を奪い、勢いよく食べ始めた。

「おい! 貴様、それは優気様の物だぞ!」

「大丈夫だよ、カルマ。また、頼めば良いんだじ。それより、どう? シルファ、美味しい?」

「はひ、ほへも、おいひいれふ」

「口の中の物を飲み込んでから話せ、馬鹿者」

 シルファは、口いっぱいに料理を詰め込んでいて、頬がかなり膨らんでいた。先程までの元気の無さが嘘のように、食べ進める。1度、全て飲み込んで、優気に感想を言う。

「この店を選んで正解です、主殿。こんなに美味しい物は食べたことがありません!」

「シルファが、そこまで言うなら入って良かったね」

「全く、食事1つで優気様を困らせるとは、恥を知れ」

「はひをいう、ひょくひは、ほへもひゅうようなほとはほはほ(何を言う、食事は、とても重要なことなのだぞ)」

「だ・か・ら! 口の中を食べ物でいっぱいにしながら喋るなと、言っているだろうが!」

「ま、まあまあ、落ち着いてカルマ。とにかくシルファが元気になって良かったってことで」

「優気様、いくらなんでも甘過ぎますよ」

 カルマがシルファを叱っている間に次の料理が運ばれてきた。

「待たせたな、たくさんあるからジャンジャン食ってくれ!」

「わあ、この料理も美味しそう! 食べよ、カルマ!」

 料理を前にして、目を輝かせている優気を見ていると、シルファに対する心のモヤモヤは消えてしまい思わず笑みをこぼすカルマだった。

「どうかしたの? カルマ」

「いえ、何でもありません。子供っぽい優気様を見れて良かったなと」

「えっ? そんなにはしゃいでたかな?」

「はい、とても可愛らしかったです」

「うっ、何だか恥ずかしいな・・・。まあ、別に良いか。さあ、食べよう」

「はい」

 カルマと少し話していたが、まだ料理は温かいままだった。まだ少し湯気が出ている料理を口に入れ、異世界に来て初めての料理を味わう優気だった。


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