第7話  冒険者になる前にギルドマスターとお話しします

 女性に連れられギルドの2階にある大きな部屋に入った優気達。床には赤い絨毯じゅうたんが敷き詰められ、中央には向かい合わせになっているソファと机が置いてあった。

「どうぞ、そこのソファに掛けてくれ」

「はい、ありがとうございます」

 女性に言われてソファに座ろうとする優気。カルマとシルファが、ソファに座らず優気の後ろに立とうとしたので、慌てて2人の腕を取って両隣に座らせた。

「何でわざわざ後ろに立とうとするのさ」

「主殿を守らなければいけませんから」

「気持ちはありがたいけど、少し恥ずかしいから止めて欲しいかな」

「そうですか・・・」

 優気が小声で注意をすると、シルファは残念そうな表情をしていた。一方、カルマはいきなり腕を捕まれた事で固まっていた。

「(カルマも何か言ってくるかと思ったけど、意外と静かにしてくれているな。良かった)」

 優気から見たカルマの表情は、とても落ち着いている様に見えていたがカルマ自身は止まった思考回路がまだ動いていない状況だった。

「おい、ぼーっとするんじゃない」

「なっ!? ぼーっとなどしていない、心を落ち着かせていただけだ。いつ、何が起きても良いようにな」

「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ」

「・・・はい」

 シルファに注意されたことで、我に戻ったカルマだったが優気の顔を直視出来ず視線をずらしていた。その様子を優気は不思議そうに見ていた。

 優気達がソファに座ると向かい側のソファに女性が座った。

「自己紹介がまだだったよね。私の名前は、エル。ここのギルドマスターをしているよ」

「ギルドマスターてことは、一番偉い人ですか?」

「そうなるね」

 優しい笑顔を向けてくれたエルだったが、ギルドマスターという言葉を聞いた優気は急に緊張し始めてしまった。

「え、えっと、は、初めまして、僕は、織原優気と言います」

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。君の名前もさっき確認しておいたから知っているよ」

 エルは、そう言うと先程優気が書いていた冒険者登録に必要な紙を見せて机の上に置いた。

「エルさんに呼ばれたのは、僕が書いたその紙に何か問題があったからでしょうか?」

「う~ん、問題という訳でも無いけれど確認して起きたいことがあってね。それで、申し訳ないけれどこうして直接会って話す機会を作らせてもらったんだ」

「僕の職業についてですか?」

「ん? 確かにその話もするつもりだけど、よく分かったね」

「少し話しを聞いたことがあって、その僕の職業・・・テイマーはあまり好ましく思われていないって」

「まあ、そうだね。テイマーと聞けば、ほとんどの人がその人物を避けようとする」

「どうして・・・」

「街にいる人からすればモンスターを連れているなんてどうかしている、もしかしたら殺されるかもしれないと考える人達が多い。そして、冒険者からはモンスターと一緒に行動するには危険過ぎると不満を言う人がほとんどなのさ」

「そんなことは・・・」

「テイマーという職業は嫌われている、しかし」

「えっ?」

「テイマーという職業を知っただけじゃ、その人がどういった人物かなんて分からない。人の本質というのは直接会って話さない事には理解出来ないからね」

「それは、つまりどういう・・・」

「言っただろう? って。君がどういう人物なのかを少しだけでも知って起きたいのさ」

「僕がテイマーだから、冒険者に出来ないと言われるのかと思ってました」

「まさか、そんな意地悪しないよ。それに私はどちらかというと興味があるんだ」

「興味?」

「テイマーが嫌われているなんて言っているけれど、実際の所会った事は無くてね。実は、君が初めてなんだ」

「そうなんですか」

「それで、君のことを教えて貰えるかな? 出身とか、今まで何をしていたのか、後すでにテイムしたモンスターはいるのか」

「えっと、何を話したら良いのか」

 優気は、テイマーについて何を言われるか分からず身構えていたがエルと話していて、彼女は職業など関係なく自分と話してくれているのを感じ、悪い人では無いということも感じていた。

 優気は、ギルに話したときと同じように自分が異世界から転生してきたことを話そうと考えていると、カルマが小声で話しかけてきた。

「優気様、まずは私達の事を話して下さい」

「えっ、でも、いきなり2人の話しをしても大丈夫かな?」

「だからこそです。私達の事を話して相手がどういった対応をしてくるのか知って置いた方が良いと思います」

「カルマは、エルさんのことは信用出来そうにない?」

「今の会話だけでは流石に信用は出来ませんが、優気様が思っているように悪い人間では無いと思います。ですが、念のために」

「分かった。それじゃあ、2人のこと話すね」

 優気とカルマが話している間、エルは何も言わず話し終わるまで待っていてくれていた。

「お話はもう大丈夫かい?」

「すみません、何を話すのか相談していました」

「良かった、何も話してくれないのかと思ったよ。冒険者というのは、自分勝手な人が多くて人の話を聞かなかったり、何かあっても報告しない人ばかりだから」

「ぼ、僕は、ちゃんと話しますよ」

「ありがとう。それで何を話してくれるのかな?」

 優気は、カルマとシルファがどういった存在で自分がテイムしている事を話し始めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る