第6話 何とか街に着きました

 朝日が昇り始めた頃、優気は目を覚ました。大きく伸びをして、体をほぐす。まだ、少し寝ぼけているとシルファが顔をそっと近づけてきた。

「おはようございます。主殿」

「おはよう、シルファ。よく眠れた?」

「はい、バッチリです」

「そうか、良かった」

「主殿はどうでしたか?」

「うん、僕もバッチリ・・・」

 シルファに返事をしようとした時に、夜中に1度目を覚ましたことを思い出した。少し寝ぼけていたが、カルマと何を話したのかは詳細に覚えている。会話の内容を思い出した優気は、自分が恥ずかしいことを言っていたのではないかと今更ながらに思ってしまった。

「おはようございます。優気様」

「あっ、おっ、おはよう、カルマ」

 カルマは、先に起きていたらしく優気に挨拶をしてきた。いきなり声を掛けられた優気は挨拶を返したが思わず声が裏返ってしまった。

「どうかしましたか? 主殿」

「あ、いや、な、何でも無いよ」

「そうですか?」

「(うう~、僕が言ったこと変じゃなかったかな? カルマは特に気にしている様子は無いみたいだけど)」

 優気から見たカルマは特別様子が変わっているようには見えなかったが、実はカルマも動揺していた。

「(普通に挨拶出来ていただろうか、優気様はあのまま寝てしまわれたし、もしかしたら覚えていないのかもしれない。それなのに私だけが意識している訳にはいかない。そうだ、心を落ち着けるんだ)」

 優気とカルマは、自分がどういう振る舞いをしているかを考えている為、シルファはその2人を不思議そうに見ていた。

「主殿、今日はどうしますか?」

「朝早いけれど、町に向かってみようか」

「分かりました」

「2人とも準備は大丈夫?」

「問題ありません、主殿」

「私も、大丈夫です」

 昨日のようにシルファの背中に乗り、優気達は町へと向かった。

 出発をしてから、日がすっかりと昇ってしまった頃、ようやく町と思われる場所が見えてきた。町を守っていると思われる防壁があり、円を描くように建てられている。

「あそこが、ギルさんが言ってたギルメアの町かな?」

「恐らく」

「ここにいても分からないし、とりあえず行ってみようか、・・・あっ! その前に」

 優気は、ギルから聞いたことを思い出した。

『テイマーはこの世界では、正直あまり好まれていない。出来るだけ知られないようにしておいた方が良いだろう。もし、冒険者になるためにギルドに行くときも周りには注意を怠らない方が良い。職員は個人の情報は流さないようにしてある筈だから大丈夫だとは思うが』

「(神様と一緒に僕を見送ってくれた天使のアリスさんも、似たようなこと言ってたな。どうして、そんなに嫌われているんだろう?)」

 考えては見るが、全く答えが分からない。優気は、考える事を止めて町へ行くためにカルマとシルファにお願いをした。

「カルマ、シルファ、耳や尻尾を隠して見た目を人間みたいにすることは出来る?」

「少し待って下さい」

 カルマは目を閉じて、集中すると、耳や尻尾が見えなくなった。

「私もやってみます」

 シルファも、1度人型になり、そこから集中して、上手く耳と尻尾を隠すことに成功した。

 2人とも見た目は完全に人間の少女の姿に変わることが出来た。

「凄いよ、2人とも。完全に人の姿になってるよ」

「初めてでしたが、上手く行きましたね。魔力をコントロールすれば、自由に出したり隠したり出来そうです」

「そうなんだ。シルファも?」

「私は、勘です」

「勘?」

「はい、勘です」

「・・・何か、シルファも凄いね」

「優気様、騙されないで下さい。そいつは適当にやって偶々たまたま上手くいっただけです」

 自慢げに胸を張るシルファに、ツッコミを入れるカルマ。

「それでも上手くいったんだから凄いと僕は思うよ」

「優気様は甘過ぎますよ」

「ははは、そうかも。とりあえず、これなら町の中に入っても大丈夫かな? それじゃあ、行ってみようか」

「人前で変身が解けるようなミスをするんじゃないぞ?」

「貴様こそ、主殿の迷惑になるようなことはするなよ?」

 町へと進み始めた優気の後ろで、カルマとシルファはお互いを注意していた。

 町の入り口が見えてくると、門番らしき男性が声を掛けてきた。

「はい、少し止まって下さい。何か身分を証明する物は持っていますか?」

「えっと、すみません、持ってないです」

「それでは、ギルドの方に案内をするのでそこで冒険者カードを一時的でも良いので発行して下さい。それが身分証明書の代わりになりますので」

「えっと、分かりました。(ギルさんの話ではすぐに必要な物では無い感じだったけれど・・・)」

 ギルの話しを思い返して、必ず必要になるような言い方はしてなかった。しかし、町へ入るときに必要な物も詳しくは教えて貰っていなかったことを思い出した。

「(まあ、冒険者カードは作っておこうと思っていたし、ちょうど良かったのかもしれない)」

 門番の人に案内され町の中に入っていく。優気は、後ろに付いてきているカルマ達をチラッと見た。今の時点では2人が人間でないことはどうやらバレていない。気を抜ける訳ではないが、優気は少し安心した。

 町の中をあるいると、色んなお店が目に入ってくる。優気にとって初めて見る物でもあったがカルマやシルファも初めて見る物であふれていた。町の中を見ながら進んでいると、いつの間にかギルドと書かれた看板があるところまで来ていた。

「ここが、この町のギルドになります。中に入って冒険者カードを発行して下さい。冒険者カードを作ると、ギルドの方から私達の方に連絡が来るので、わざわざ伝えに来る必要はないので気を付けておいてください」

「分かりました。ありがとうございます」

「それでは」

 門番をしていた男は、来た道を戻っていった。

 優気は、もう一度ギルドの建物を見た。緊張感とは別に心の何処かでワクワクしている自分がいることに気が付く。

 カルマとシルファを見て、一緒に入ろうとキラキラした目で訴えていた。カルマとシルファは、優気のその姿を見て笑顔を見せた後、優気の隣に並んでギルドの中に入っていった。

 中には、人が大勢おり体が大きい者から小さい者、1人でいる人もいれば仲間と仲良く話している人達もいる。

「凄いな~、ここがギルドか~」

 初めてのギルドに思わず辺りをキョロキョロと見渡してしまう優気。その様子を見られていたのか、1人の女性が近づいて来た。

「ギルドに来るのは、初めてですか?」

「あっ、はい、そうです」

「私、ここで働いているギルド職員のリアと言います」

 リアと名乗った女性は、ブラウン色の長い髪を1つに束ねており首からはネームプレートが垂れていた。ネームプレートを胸のところまで持って来て、優気に見えやすいようにしていた。

 優気は、ネームプレートをじっと見つめ確かに“リア”という名前が書かれていることを確認した。リアはニコッと笑うと

「今日は、どういった御用でしょうか?」

と尋ねてきた。

「あっ、実はこの町に初めて来たんですけど、身分を証明する物が無くてそれで冒険者カードを発行して貰うために来たんですけど」

「冒険者登録ということで宜しかったですか?」

「はい、冒険者登録をお願いします」

「それでは、こちらに来て下さい」

 職員のリアに付いて行きカウンターまで案内して貰った。隣では他の職員が冒険者の依頼を確認しているところだった。まだ、慣れずに周りをキョロキョロしているとリアが向かい側から話しかけてきた。

「あまり周りを気にしすぎると、悪い人達に目を付けられてしまうかもしれませんよ?」

「えっ!? そうなんですか!?」

「ふふ、冗談ですよ。でも、折角冒険者になるんですからもっと堂々としてた方が格好いいですよ?」

「あははは」

 リアの気遣いに対して逆に自分がしていたことが恥ずかしく思えて来た優気。優気は、深呼吸をして落ち着かせようとした。

「それでは、登録の説明をしていきますね」

「お願いします」

「説明と言っても特に難しいことはありません。こちらに必要事項を記入していただければすぐに発行出来ますから」

「分かりました」

 リアは、笑顔で対応を続けてくれた。優気も少し緊張が解けて渡された紙に次々と必要なことを書いていく。

「(この世界の文字ちゃんと読めるのか不安だったけど、読めるし書けるから良かった。流石、神様)」

 転生する前に神様から与えられていたスキルによって、この世界の文字をスムーズに読めて理解することが出来た。初めて知った文字の筈なのに、前から知っていたかのようにスラスラと書き進めていく。

 ほとんどの空欄を埋めて、最後の空欄も埋めようとしたのだが、ペンが止まってしまった。職業という欄が書いてあり、そこに何を書けば良いのか悩んでいた。もちろん自分の職業がどういった物か分からない訳ではない。恐らくテイマーと書くべきなのだろう。

「どうかしましたか?」

「あ、その、ここの職業というのは・・・」

「そこはですね、冒険者といっても色んな人達がいるので少しでも区別出来るように書いて貰っているんです。ソルジャーだったり僧侶だったり・・・」

「そうなんですか」

 ステータス画面には、職業の所にテイマーと書かれていたので予想はしていたが、確認の為に説明を聞いた。テイマーと書けばどうなるか分からないが、それでも優気は自分がテイマーであることを偽りたくなかった為、正直に職業の欄にテイマーと書いて提出した。

 提出した物を上から順に見ていったリアは、最後に書いてある職業の欄を見ると少し戸惑っている表情を見せた。

「あの、職業の欄に書いてある物は間違いではありませんか?」

「はい、それで間違いありません」

 周りには聞かれないように小さな声で聞いてきたリアに対して、はっきりと返事をした。

 リアは書類に書いてあるものを見ながら少し考えている様子だったが、もう一度優気の方を見て何かを感じたのか、書類を持ってカウンターの奥にある扉へと向かっていった。

「それでは、今からこの書類を元にカードを発行してくるので、ここで少し待っていて下さい」

「分かりました」

 優気は、リアが見えなくなってもずっと扉の方を見ていた。

「優気様、良かったのですか?」

「何が?」

「テイマーと書いたことです。テイマーは嫌われていると昨日会った男も言っていたではありませんか」

「うん、分かっているよ」

「それでは、どうして書いたのですか? さっきの職員に頼めば書かずに済んだかもしれなかったのに」

「・・・嫌だったんだ。折角、カルマやシルファと仲良くなれるきっかけをくれた職業なのに無かったことにしたりするのは」

「優気様・・・」

「どうなるか分からないけれど、もしかしたら嫌われたりしないかもしれないしね」

 奥の扉が開き、リアともう1人髪の長い女性が現れた。リアやギルドの職員達はきちっとした服装に対し、かなり動き安そうな格好をしていた。

 女性は、優気に対してニッコリと笑いかけ、話しかけてきた。

「君が新しくカードを発行しに来た人?」

「あ、はい。そうです」

「少し話しをしたいのだけれど、大丈夫かしら?」

「えっと、はい、大丈夫です」

「それじゃあ、私に付いてきて」

 優気達は、女性の言うとおりに後ろから付いて行きギルドの2階に上がっていった。


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