第5話 異世界に来て1日目だけど、感謝の気持ちはきちんと伝えようと思います

 モンスターに囲まれていた男性を助けた優気達は、そのまま話しを続けていた。

「まだ、名前を言っていなかったな。私の名前はギル・アルバート。ギルとでも呼んでくれ」

「僕の名前は、織原 優気です。僕の事も優気と呼んで貰って大丈夫です」

「優気殿か、改めてお礼を言わせてくれ」

「どういたしまして。元気になって良かったです」

「それより、優気殿はどうしてこの場所に?」

「えっと、実は~」

 優気は、自分が異世界から転生してきたことを正直に言うのか悩んだが、優気の性格上嘘を付くことが苦手だった為、結局全て正直に話すことにした。

「なるほど、つまり優気殿はこの世界に来たばかりで近くの街を探そうとしていた所、私が戦っている所を見つけたということか」

「そうですね。そんな感じです」

「私の知っていることで宜しければ、全てお話ししようと思うが」

「本当ですか? あっ、ちょっと待って下さい」

 優気は、1度ギルとの会話を止め後ろの方で一緒に話しを聞いていたカルマとシルファに尋ねた。

「ギルさんからこの世界のことを少し教えて貰えそうなんだけど、話しを聞いても大丈夫? 2人は、ギルさんから離れたいんじゃない?」

 今は、ギルと普通に話している優気だが先程まではギルに殺意を向けられていた。カルマとシルファは、優気が侮辱されたことが許せずもう少しでギルに襲い掛かるところだった。その後、ギルからの謝罪を受けたが心の底から気を許している訳では無かった。

「ごめんね、すぐに聞くべきだったよね。僕達の事も話しちゃったし」

「気にしないで下さい。確かにあのギルとかいう男は気に入りませんが、少しでも優気様の役に立つ情報が聞けるのなら話しを聞くべきだと思います」

「私も気にしていません。正直あの男は嫌いですが、ですが主殿の為ならいくらでも我慢出来ます」

「え~と、ありがとう。でも、無理はしないでね」

 カルマとシルファが自分の事を思っていることも伝わって来たが、ギルのことを嫌っていることも伝わって来て、思わず苦笑いを浮かべた。

 2人の気持ちに感謝して、優気はもう一度ギルと話すことにした。

「すみません。お待たせしました。ギルさんの知っているこの世界のことを教えて貰えますか?」

「分かった」

 それから、ギルの話しを優気達は聞かせて貰った。魔力のことや職業のこと、モンスターに出くわした場合にどう対処するべきかなど、様々なことを教えて貰った。

「もし、この世界で旅を続けるのであれば1度ギルドに行って冒険者になった方が良いかもしれない」

「冒険者ですか?」

「ああ、この世界では冒険者という、ギルドから出る依頼を達成してお金を稼いでいる人達も多くいる。その人達は皆冒険者カードという物を所持しているんだ」

「そのカードがあると便利なんですか?」

「そうだな、少なくともあって困る物では無いな。普通、自分が住んでいる街もしくは拠点にしていた街から別の街に行こうとすると時間の掛かる手続きが必要なんだが、冒険者カードを見せることで時間を掛けずに通らせて貰うことが出来る」

「なるほど、確かにそれは便利ですね」

「正確なことは、実際にギルドに行って聞いてみるのが一番だろう」

「分かりました。何処か街に着いたらギルドに行って聞いてみようと思います。ここから一番近い町って何処か分かりますか?」

「ここから一番近い町になると、恐らくギメルアの町になる。このまま北に向かって進んでいけばきっと街が見えてくる筈だ」

「北ですか、それじゃあ、ひとまず行ってみようと思います」

「今から行くのか? ここからだと少なくとも2日はかかる。今日は、何処か休める場所を探した方が」

「ありがとうございます。でも、何だかじっとしていられなくて」

「そうか。それでは十分に気を付けて行ってくれ。次に会う機会があれば、改めてきちんとしたお礼をさせて欲しい」

「気にしないで下さい。ギルさんも探しもの頑張って下さい」

 優気は、ギルにお礼を言うとシルファに近づき

「僕を乗せて、また走ってくれる?」

「はい、喜んで」

 シャキッとじた返事をしたシルファの尻尾は、嬉しさで大きく揺れていた。シルファの背中に乗った優気は、カルマに手を差し出し、その手を取って優気の後ろにカルマは座った。

「よし、行こう!」

 優気の掛け声と共にシルファは走り出した。あっという間に、ギルとの距離は離れ見えなくなってしまった。

 ギルの姿が見えなくなり、モンスターがいる気配も無い草原をシルファは駆け抜けていく。

「ねぇ、カルマ、シルファ」

「どうしました?」

「さっきは、僕の為に怒ってくれてありがとう。凄く嬉しかった」

「いえ、大したことありません」

「あのくらい当然のことです」

 少し恥ずかしそうに言った優気の感謝の気持ちは、声が小さくともしっかりと2人の心に届いていた。

 しばらく走っていたが、日が暮れ始めたため野宿をすることに決めた。流石のシルファでも数時間で着くことは出来なかった。薪を集めて火を付けて、近くにあった川で魚を捕って夕食にした。

 夕食を取った後は、そのまま眠りについた。シルファは、フェンリルの姿のまま眠り、優気はシルファに背中を預けて寝ていた。

 まだ、夜が明ける前に1度目が覚めた優気はカルマが起きていることに気が付いた。

「カルマ、どうしたの?」

「すみません、起こしてしまいましたか?」

「ううん、何だか少し目が覚めちゃって、カルマもこっちに来たら?」

「いえ、私はいつモンスターが襲って来ても良いようにしておかなければならないので、寝る訳には」

「それだと、カルマが大変じゃない?」

「私は少しでも眠れれば大丈夫ですから。少し、退屈なくらいです」

「それじゃあ、一緒にお話をしようよ」

「お話ですか?」

「それなら隣にいても大丈夫でしょ?」

「ですが・・・」

 少し寝ぼけているが優しげに見つめてくる優気に負けてカルマは優気の隣に座った。シルファはぐっすり眠っている。

「カルマ・・・」

「・・・はい」

「僕の仲間になってくれてありがとう」

「そんな、それを言うのであれば私は優気様にこの命を救って貰いました。私をテイムして頂き本当にどれほど感謝をすれば良いのか」

「ううん、感謝するのは僕の方なんだ。本当は、異世界に来るって決まった時とても怖かったんだ。もちろん楽しみにしている自分もいたんだけどね。でも、僕を知っている人も逆に僕が知っている人もこの世界にはいない」

「・・・優気様」

「今、考えてもとても怖くて寂しくて、でも、近くにカルマやシルファがいるのを感じるととても安心するんだ」

「・・・私も同じです。優気様に会うまでは私も1人で、いつまた私を捕まえた奴らが来るのかと怯え、そして1人でいることをとても寂しいと感じていました」

 焚き火の火はまだ燃えている。優気とカルマは風でゆらゆらと揺れている火を静かに、ただじっと見つめている。夜空には綺麗な星空が広がっている。

「カルマ? 僕ね、これからも寂しい思いをしている人がいたら助けてあげたい」

「とても素敵なことだと思います」

「僕に出来ると思う?」

「はい、優気様なら大丈夫です。私が保証します」

「カルマやシルファに迷惑掛けるかもしれない」

「問題ありません。私もシルファも優気様の力になりたいと考えています。どんな時でも助けになれるように傍にいますから」

 カルマの言葉に反応したのか、寝ている筈のシルファの尻尾も左右に大きく揺れて意思表示をしていた。まるで「お任せ下さい」と言っているかのように。

 優気は、シルファの頭を優しく撫でた。シルファの頭を撫でながらカルマの方にゆっくりと視線を向けた。カルマは気付かずに火の方を見続けている。近くにあるこの暖かさを優気は何処か懐かしく感じ、カルマの肩に頭を置き

「ありがとう。僕の家族になってくれて」

そう言うと、そのまま眠ってしまった。

 カルマにその言葉はもちろん聞こえていた。慌てて優気の方を見るがスースーと寝息を立てて、また眠りについていた。

「ずるいですよ、そんなことを言うのは・・・」

 優気の寝顔をじっと見つめたあと、自分の肩に乗っている優気の頭にカルマは自分の頭を重ねた。

「このような心では、見張りなんて出来るわけ無いじゃないですか」

 そう言った、カルマの顔は焚き火の火に当てられたのか少し赤くなっていた。

 こうして、異世界に来て最初の1日は終わった。


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