第3話 少し変わった銀狼に出会いました

 転生した直後に九尾のカルマをテイムすることに成功した優気は、洞窟を出て街を目指すことにした。洞窟を出るとそこは森の中だった。

「ここって森の中だったんだね。迷わずに抜けられるかな」

「任せて下さい主様。この森のことは十分知っています。私が外までご案内します」

「ありがとう、カルマ。でも、主様っていうのは止めてくれないかな」

「すみません、不愉快な思いをさせてしまいましたか?」

「あ、違うよ! 不愉快とかじゃなくて、少し恥ずかしいからさ。優気って呼んでよ」

「分かりました。それでは、優気様と」

「う~ん、やっぱり様は付けるんだね」

 慣れない呼ばれ方に恥ずかしさを感じながらも、カルマに慕って貰えていると思うと嬉しくも思った。

「カルマは、その格好で動きずらくない?」

 優気は、カルマが赤い着物を着ているのを見て森の中では動きづらいのではないかと心配した。

「心配は要りません。これは、私の魔力によって作られた物なので機能性は自分で変えることが出来ます」

「へぇ~、魔力で服も作れるなんてカルマは凄いんだね」

「い、いえ、大したことではありません」

 優気に褒められたカルマは、嬉しさを表情には出さないようにしていたが尻尾は左右に揺れていた。

「それじゃあ、ひとまずこの森を抜けようか。よろしく頼むよカルマ」

「はい、お任せ下さい」

 2人は、洞窟を後にして森の中を進んでいった。森の中を進んで行くとモンスターが現れた。

「あれはモンスター?」

「スライムですね。モンスターの中でも最弱に位置するものです」

「あれがスライムか、僕でも倒せるかな?」

「大丈夫です。優気様なら余裕で倒せる筈です」

「余裕かどうかは分からないけど、やってみるよ」

 優気は、ステータス画面を開きアイテムボックスから剣を取り出した。神様が優気に用意していた物だ。剣を手に取りスライムに近づいていく。スライムも優気の動きを見て、避けるまたは攻撃を仕掛けようとしていたが優気の後ろにいるカルマから凄い威圧感を感じた。

「(そこを動くんじゃないぞ。間違っても優気様に攻撃しようものなら)」

 スライムは、恐怖で動くことが出来ず、その間に優気に斬られて倒された。

「や、やった、初めてモンスターを倒したよ!」

「流石です。優気様」

「あ、スライム倒したくらいで喜んでたらダメだよね」

「いえ、モンスターはモンスターです。素直に喜んで良いと思います」

「ほ、本当? へへへ、ありがとう、カルマ」

 カルマの言葉を聞いて喜んでいると、ステータス画面が勝手に開かれて

「レベルが上がりました」

 という文字が出て来た。

「スライムを1匹倒しただけなのに、もうレベルが上がった。僕のレベルが低いからかな。えっと、カルマのレベルも上がってる」

「どうやら優気様が獲得した経験値は、テイムしている者にも与えられるようですね」

「そうみたいだね。でも、不思議だな、カルマは僕よりも強い筈だからレベルも上だと思ったんだけど」

「同じレベルでも種族によって強さは異なりますからね」

「そっか。それじゃあ、これから一緒に強くなろうね」

「はい、優気様のお力になれるように全力で頑張ります」

 スライムを倒し、レベルが上がった事も確認した後、また森の中を進み出した。進んで行くとカルマが何かを聞き取ったようだった。

「どうかしたの?」

「この先に何かが苦しんでいる声が聞こえてきます」

「えっ? それじゃあ、急いで助けに行かなきゃ」

「お待ち下さい。正体までは分からないんです。危険かもしれません」

「うん、分かってるけど、放って置けないんだ」

「・・・そうですね、貴方はそういう人でした。こちらです、案内します」

 優気は、カルマの案内する場所へ急いで向かった。カルマは1度立ち止まり身をかがめて、優気にも姿勢を低くするように言った。そして、カルマが聞いた声の正体がいる方に指を指す。そこには、銀色の毛をした狼がいた。全体的に銀色の毛だったが、所々黒い毛も混ざっている。

「あれは、恐らくフェンリルですね。普段は群れで行動している筈なのですが近くに仲間がいる気配はありません」

「凄い怪我だ、助けないと!」

「お待ち下さい! もう少し様子を――」

 カルマは呼び止めようとしたが、すでに優気はフェンリルの前に立っていた。優気に気付いて鋭い目つきで睨むが怪我で体を起こすことが出来ない。

「ごめんね、急に現れて驚いたよね。君の体の怪我見せてくれないかな? もしかしたら、治せてあげられるかもしれない」

「どうやら、警戒を解く気は無さそうですね」

 カルマも優気の身を案じて近くまで来ていた。優気もフェンリルがずっと警戒しているのは分かっていたが、更に近付いた。もう少しで触れられる程に近づくと、力を振り絞ったフェンリルが優気の腕に噛みついてきた。

「ぐっ!」

「優気様! おのれ~~!」

「カルマ、待って!」

 今にもフェンリルに飛びかかろうとしているカルマを止める優気。我慢しているが鋭い牙で噛みつかれている腕は、叫んでしまいたくなるほどに痛い。それでも優気は笑顔でフェンリルに話しかけた。

「大丈夫、怖く無いよ」

 優気の笑顔を見て気持ちが伝わったのか、フェンリルは優気の腕から口を離した。

「ありがとう、ちょっと見てて」

 優気は、噛まれた場所に回復魔法を掛けて傷を治しているところを見せた。

「これを君にやってあげたいんだけど良いかな?」

 フェンリルは、静かに頷き頭も地に着けた。優気は、フェンリルの体に手を置いて回復魔法を掛けた。すると、フェンリルの怪我は徐々に治っていき体を起き上がらせる事が出来るようになった。

「ふぅ~、良かった」

「優気様、大丈夫ですか?」

「カルマ、ごめんね、心配掛けて」

「いえ、それより、お怪我の方は?」

「うん、ちゃんと治せたみたい、フェンリルも元気になったんじゃないかな?」

「フェンリルのことでは無く、優気様のお怪我についてお聞きしたのですが・・・」

 カルマの心配は優気には届いていなかった。フェンリルは、自分の体を確認すると優気に近づいた。

「私の怪我を治して頂きありがとうございます。そして、怪我を負わせてしまったこと心から謝罪を申し上げます」

 深く頭を下げるフェンリル。

「そんな気にしなく――」

「全くだ、本当なら貴様をこの世から消し去っても良かったのだぞ」

「カ、カルマ、落ち着いて。えっと、どうして怪我をしていたの? 結構ひどかったよ?」

「私は仲間とは見た目が違う事から気味悪がられて、群れから追い出されてしまったんです。その時に群れの全員から攻撃されてしまい、この場所で倒れていたのです」

「どうして、そんな酷いことを」

「フェンリルは、誇りが高い種族だと聞いたことがあります。その中に自分達とは違う姿の存在がいることが気にくわなかったのでしょう」

「でも、仲間だったんでしょ? 家族だったんでしょう? それなのに」

「不思議な方ですね。私の怪我を治すどころか、会って間もない私の話を聞いて真剣に考えて下さるなんて」

「それが、優気様の良いところだ。私もその優しさに救われた。今では、テイムしてもらい一緒にいることを許してもらっている」

「テイム?」

「僕の職業はテイマーなんだ。カルマは、この世界で初めて出来た仲間なんだ」

「仲間・・・、あの、私も――」

「君も一緒に来てくれる?」

「良いんですか? 私は他のフェンリルとは」

「頼んでるのは僕の方だよ? それに僕は君のその姿綺麗だと思うけどな」

「・・・綺麗、そんなこと初めて言われました」

 優気の言葉に驚いたが、心が何か温かいもので包まれていく感じがした。

「私もあなたに付いて行きたいです」

「うん、分かった」

 ステータス画面には、カルマをテイムした時と同じ画面が出て来ていた。

「<<フェンリル>>をテイムしますか」

「もちろん」

「<<フェンリル>>をテイムしました」

 画面の文字を押してフェンリルをテイムすることが出来た。

 すると、カルマと同じようにフェンリルの体が光に包まれて、収まると少女がいた。

「主殿、これからは貴方に忠誠を誓います。これからよろしくお願いいたします」

「これからは、優気様に降りかかる火の粉は全て払っていく気持ちでいるのよ」

「分かってる、誰にも傷つけさせない」

「優気様、やりましたね。早速二体目をテイムしてしまうなんて・・・、どうしました?」

 優気は、フェンリルが少女の姿になった時から目を閉じていた。その理由は、カルマの時とは違いフェンリルが裸で現れたからだった。

「これからよろしくって言いたいけど、それより早く服を着てーー!!」

 優気の声は森中に響き渡った。転生した初日にテイムを成功させた優気だったが、これが今まで誰も初日に出来た事が無い凄いことだとは知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る