第2話 九尾は伝説の存在らしい
優気が神様と出会った場所から魔方陣で移動し転生した場所は洞窟の中だった。洞窟の中は
「ここは、何処だろ? 転生は上手くいったのかな?」
自分の体に異変が無いか確かめ、周りを見る。目の前には鉄の扉があり、壁は円を描くようになっていた。
「扉があるってことは洞窟とか遺跡の何処かに出て来たのかな。とりあえず、外に出てみよう」
扉の方に歩き出そうとした瞬間
「お前は誰だ?」
後ろから背筋が凍るような声が聞こえてきた。優気は一歩踏み出した状態で止まりゆっくりと体ごと後ろを向いてその正体を見た。そこには、金色の毛で尾が九つもある狐がいた。見下ろされ、鋭い眼光が優気を見ていた。狐の体全体から出ている威圧感により優気は恐怖し動けなくなっていた。
「お前は誰だ? 何処から来た?」
「えっと、僕、織原 優気って言います。何処からっていうのは神様がいるとこらから来たんですけど・・・」
「神? お前、転生者か?」
「知っているんですか?」
「いや、もういい、ここから出て行け」
「えっ? あの・・・」
「聞こえなかったのか? 出て行けと言ったんだ」
声が少し大きくなり更に威圧感が増した狐の言う通りに出ていこうと体の向きを変えようとすると、狐の足に鎖が掛けられているのが見えた。よく見ると体中に傷があり、弱っているように見える。聞くのは怖かったが気になってしまい
「あの、その鎖は?」
「・・・」
「それがあったら外に出れないんじゃ・・・」
「・・・」
「それに、体中に傷もあるし・・・」
「・・・」
「鎖外してみましょうか? 出来るか分かりませんけど・・・」
「・・・黙れ」
「えっ?」
「黙れと言ったのだ」
「でも、そのままじゃ」
「人間ごときがこの九尾の心配などするな! 早く消え失せろ!」
九尾は地に伏せていた体を起き上がらせ優気に向かって怒号を放った。あまりの迫力に優気は怯み、意識を何とか保っていた。
「早く消えろ、さもなければお前を・・・ごふっ!?」
九尾は突然口から地を吹き出し、もう一度地に伏してしまった。優気はその姿を見て驚いていた。先程までかなりの威圧感を放ち近寄りがたい雰囲気をだしていた九尾が急に弱々しくなっていた。
「くそっ・・・こんな時に」
「大丈夫ですか?」
「心配などするなと言った筈だ」
「でも、苦しそうです。放っておけません」
九尾の苦しそうな様子を見て恐怖感よりも心配の方が優気の気持ちは上回っていた。どうにか出来ないかと近づこうとするが
「近寄るな!」
「っ!?」
近づこうとする優気に九尾はまた怒号を放つ。だが、余程体力が落ちているのか起き上がらず息も切れ始めていた。
「でも、このままじゃ・・・」
「余計なお世話だ」
「確かにいきなり現れた奴を信用するのは難しいかもしれませんが何か力になれるかもしれません。それに、僕テイマーだから、もしかしたら・・・」
「テイマーだと!?」
「はい・・・テイマーですけど」
テイマーという言葉を発した瞬間、九尾はまた起き上がり先程とは比べものにならない程の威圧感と殺気を放ってきた。無理をして体を起こしているのだろう、微かに震えているのが分かる。
「無理したらダメです! このままじゃ」
「死んでしまうかもしれないな」
「だったら」
「だが、私はテイマーが許せない」
「どうして?」
「この傷も、この鎖も全てテイマーにやられたからだ」
「えっ?」
「そして、そいつらのせいで家族も失った」
優気は返す言葉が見つからなかった。これだけのことをされていたら人間自身を恨んでもおかしくはないのに、テイマーと言わなければ見逃すつもりでいてくれていた。九尾自身は弱りこのまま死んでいくかもしれなかったのに
「私にこんなことをしたテイマー達はもう一度戻ってくる言っていた。私は怖くて外から入って来られないように魔法を掛けておいた。だから、お前が現れた時は最初は怖がっていた。だが、もういい」
「そんなに辛い気持ちを持っていたなんて知りませんでした。僕もテイマーです。だけど、酷いことはしません! 本当にあなたを助けたいんです!」
「もう、騙されるものか」
「そんな・・・」
「さあ、近づくなら近づいてみろ。どうせ死ぬなら一矢報いてやる」
優気はどうすればいいのか分からなかった。近づけば自分が殺されるかもしれない。しかし、放って置けば恐らく九尾は死んでしまう。そんな時ある言葉が浮かんだ。
『優しい心を持った人に』
「うん、そうだね、誰にでも優しくしなくちゃね」
下を向いていた顔を上げ、握っていた拳を開いて、一度深呼吸をした。そして、九尾に歩み寄っていった。
「来るか、なら・・・」
「じっとしていて下さい。体調が悪化してしまいます」
「・・・ふざけるな」
「ふざけていません」
優気は躊躇することなく九尾に近づいていく。
「ふざけるな! その体、引き裂いて、かみ砕いて、ボロボロにしてやる!!」
「ボロボロなのはどっちだ! 体に無茶させて、そんなに死にたいのか!!」
「なっ・・・」
怒号を放った九尾はそれよりも大きな怒号を返されてしまい怯んでしまう。いや、怯んだのは声よりも優気の表情に怯んでいた。優気の顔は穏やかだった表情から一変し険しく、鋭い眼光を飛ばしていた。九尾の動きが止まっている間に優気は足元に辿り着き、足に付いている鎖に触れた。
「しまった!」
九尾は、優気が鎖に触れているのに気付いたとき目を閉じて死を覚悟した。しかし、カランッ、という何かが落ちる音が聞こえ、自分がまだ死んでいないと分かる。恐る恐る目を開けると足に付けられていた足枷が綺麗に外れていた。
「ふぅ、ちゃんと外れて良かった~。もし、外れなかったらどうしようかと思った」
緊張して出ていた額の汗を拭い、一息つく。
「鎖が・・・外れて」
「この調子で全部外しますね!」
「待てっ!」
「どうしました?」
「怖くないのか?」
「何がですか?」
「鎖を全て外した瞬間、お前を殺すかもしれないということだ」
「・・・確かにそれは怖いですね」
「だったら」
「でも、放って置けないんです」
「何故?」
「困っているようにみえたからかな、そういう人見ると体が勝手に動いてしまうんです。あっ、今回は人じゃ無かったですけど」
笑いながら答え、残りの足枷を外していき、最後の足枷も外し終わった。
「よし、これで全部です」
九尾をつないでいた鎖が全て外れると、九尾は勢いよく頭を下げてきた。優気は、殺されると思い目を閉じる。しかし、何も異常はないので目を開けると、九尾の頭が目の前にあった。
「鎖を外してくれて本当にありがとう」
「あっ、そんな、お礼なんて」
「それに、失礼なことをかなりしてしまった」
「それも、気にしないで下さい」
「しかし」
「それにまだ終わってません」
そういうと優気は九尾の頭に手を乗せて
「えっと、何て言うんだったっけ。そうだ、<<回復(ヒール)>>!」
優気が魔法を唱えると九尾の傷がどんどんとなくなっていった。
「これは!?」
「良かった、こっちも上手くいったみたいで。調子はどうですか?」
「正直驚いています。体の底から力がみなぎってくる気がします」
「僕から見ても元気になったように思えます」
九尾は自分の体がここまで回復したことに驚いていた。優気は、九尾を見て本当に傷は残っていないか見ていた。確認し終わり大丈夫だと分かると
「それじゃあ、僕は行きますね」
「えっ?」
「今度は、悪いテイマーに会わないように気を付けてくださいね」
頭を下げて扉に向かおうとすると
「待ってくれ!」
「ど、どうしました?」
「私をテイムして貰えないだろうか」
「でも、それは」
「分かっている、自分で言っていたことと矛盾していることに、しかし、この恩を一生懸けて返したい。それに、貴方なら大丈夫な気がする」
「良いんですか?」
「お願いしているのは私の方だ」
「分かりました。これからよろしくお願いします」
「私の名前はカルマ、九尾という種族だ」
優気は、神様から教えて貰っていた自分のステータスなどが書かれているものを目の前の空中に開いた。そこには、
「『 九尾 カルマ 』 をテイムしますか?」
という文字が出ていた。
「はい」
優気は、言葉に出しながら文字を押した。
「『 九尾 カルマ 』 をテイムしました」
カルマをテイムしたことを確認し
「これでテイム出来たはずだよ」
カルマに知らせようとすると、カルマの体が光り出していた。
「な、何?」
あまりの眩しさに目を閉じた。光が収まったのを確認し目を開ける。すると、カルマがいた場所には金色の髪をした美しい少女が立っていた。少女は、優気に向かって優しく微笑んだ。それを見た優気は心臓の音が早くなっているのに気付いた。
「あの~、ここに尻尾が九つある狐がいた筈なんですけど」
「私ですよ」
「えっ?」
「ほら」
少女は、後ろを向いて九つの尻尾を見せた。
「カルマって、女の子だったの?」
「はい、そうですよ」
優気は、人の姿にしかも少女の姿になったことに驚いていたが、さらに
「クラスでいえば伝説級である九尾です。まだまだ未熟ですが、
「えっ? 伝説?」
「はい、この世界には力のレベルがあって九尾はその中でも上位の存在なんです」
「そ、そうなんだ」
転生し初めてテイムしたのが伝説級の存在だったと知り驚きを隠せない。
「で、でも、他にもテイムされたことがあるだろうし、それに負けないように頑張れば」
「失礼ですが、九尾の一族は一度もテイムをされたことがありません。無理矢理従わせようとしてくる奴らは大勢いましたが、心から繋がったのは貴方が初めてですよ」
「それは、が、頑張らなくちゃな~、ははは」
乾いた笑い声を出している優気の手をカルマはぎゅっと握りしめ
「これからよろしくお願いします、主様」
笑顔にドキッとさせられ、胸の鼓動が鳴り止まないでいる。
転生して早々にテイム出来たことを喜んでいたが、美少女とこれからずっと毎日一緒にいることを考えると身が持ちそうにないと思う優気であった。
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