優しい心を持った人になりなさいと育てられた自分が転生したら職業はテイマーに成りました

夢見 望

第1話 神様が泣き出しました

「あれ? ここは?」

 目が覚めるとそこは知らない場所で、目の前には知らない人がいた。

「おお~、起きたか? 気分はどうじゃ?」

「えっと・・・」

「まあ、気分と言っても君もう死んでるんじゃがな」

「そうですか」

「何じゃ、随分と冷静じゃの」

「というより、今の状況を理解出来ていないだけだと思います」

 少年はここに来る前のことを思い出した、学校から家に帰る途中車に轢かれそうだった子供と一緒にいた犬を助けようとして・・・

「すみません、貴方は一体何者なんですか?」

「わしか? わしは神様じゃよ」

 神様と名乗った存在は、見た目は白い髪と白いひげを生やしたおじいさんで着物を着ていた。

「しかし、災難じゃったの~。子供とその子のペットを助けようとしたらお前さん代わりに死んでしまうなんて」

「そうだ! あの子達は無事だったんですか?」

「ああ、無事じゃよ。怪我もしておらん」

「そうですか、良かった~」

「良かったのか?」

「えっ?」

「お前さんは死んでしまったじゃないか」

「ああ~、そう言われると確かにそうですね。ははは」

 神様に言われて、確かに他人を助けて自分が死ぬのは良かったと言えることじゃないかもしれない。でも、無事だったと聞いて正直嬉しかったし、良かったとも思った。

「珍しいの~、誰しも死んでしまったら何かしら後悔しているものじゃが」

「後悔ですか、それならありますよ。もっと勉強したかったですし、色んな美味しい物食べたかったですし・・・」

「いや、そういうことじゃなくてね」

「でも、しょうがないですね」

「う~む、不思議じゃ、ここまで心の綺麗な者がおるとは」

 何だか少し照れくさくなった少年は笑って誤魔化していた。神様は、何もないところから一枚の紙を取り出してその中身を読み始めた。

「何々、織原おりはら 優気ゆうき、16歳の男子高校生、趣味は家事全般で困っている人を見ると放って置けない性格である」

「あの、それは?」

「ああ、すまんの。この紙にはお前さんのことが色々書かれていてな。名前以外にこれまで何をしてきたのか、どんなことがあったのかも書かれておる」

「そうなんですね」

「・・・読むのを止めたりしなくていいのか?」

「どうしてですか?」

「いや、これにはプライベートなことが事細かく書かれていてな。もし、悪いことなどしていたら分かってしまうんじゃが」

「それは困りますけど、神様に隠し事はしちゃいけない気がして」

「(何この子良い子過ぎるんじゃけど!)」

 神様は、必要な事をしている筈なのに申し訳なく思った。一度心を落ち着かせ優気のことが書かれている紙の続きを読んだ。

「小さな頃から家族に大切に育てられ、優しい心を持った人間に成るように言われ続けた」

「はい、今でもその事は忘れずにいようと大切にしています」

「それは、良いことじゃな。ふむ、それから、今まで悪いことは一切してこず、むしろ人助けを多くしすぎて、・・・・・幸運パラメーターがカンストしている」

「その、幸運パラメーターていうのは」

「ええとな、人間には幸運だったという日もあれば不運だったと思う日もあるじゃろ?」

「そうですね」

「で、それを左右するのが幸運パラメターと言ってこの数値が高いほど幸運になるんじゃが」

 神様の手は震えていた。通常100の値を限界値に設定しているが優気の値は一万を超えていた。

「(い、一万て、何をしたらこんなにも)」

「どうしました? 何処か調子でも悪いんですか?」

「いや、大丈夫! 大丈夫じゃよ、あまり見たこと無い数字だったので驚いてな」

「もしかして、数値が低すぎたんでしょうか?」

「いや、断じてそんなことは無い! 自身を持ちなさい!」

「は、はい」

 神様は優気の肩をガッシリと掴むと目をしっかり見て優気に言った。優気から離れ紙を読む。

「しかし、一体どうやったらここまで運が上がるのか、不思議じゃ。ん?」

 紙の続きに書かれていたのは、優気の家族のことだった。優気は、両親に大切に育てられていたが、小学校低学年の時、事故で父を亡くし、その2年後に母を病気で亡くしていた。それからは祖父母に引き取られ幸せに暮らしていたが一年程前に寿命で二人とも亡くしていることが書かれており、それを見た神様は泣き出していた。

「ふっ、うぐ」

「ど、どうしたんですか? 神様?」

 優気は、いきなり泣き出した神様を心配し傍に近寄った。

「お、お前さん、家族を亡くしておったのか」

「あ、・・・はい。両親もおじいちゃんもおばあちゃんも凄く優しかったんですけど」

 優気の表情は少し曇ったが、すぐに明るい顔を見せた。

「でも、十分幸せでした。優しく、時には厳しく、楽しい時間を過ごしましたから」

「ほ、本当に、何も無いのか? 思い残したことは?」

「そう・・・ですね。もうちょっと家族に甘えたかったな、と」

「甘えて良い! もっと、わがままを言っても良い!」

「えっ、ちょっ、神様?」

 神様にいきなり力強く抱きしめられた優気、驚き息が苦しくもがいていると

「失礼します、神様そろそろどの世界に転生させるのか決め・・・、何をしているんですか?」

 突然現れたのは、赤い髪の色で背中から白い翼を生やしていた女性だった。その女性の美しさに神様に抱きしめられながらも、優気は見惚れていた。

「だって、優気君が優しい子なのにあまりにも可哀想で、ぐすっ」

 神様の泣いている姿を見た女性は呆れていたが、とりあえず優気から引き剥がした。

「事情はよく分かりませんが、早く転生の準備を進めないと」

「アリスちゃん、君は何てことを言うんじゃ! 優気君にはここに残ってもらう!」

「何をバカなこと言ってるんですか?」

 アリスと呼ばれた女性と神様がもめ始めた。その様子を見ていた優気はどうしたらいいのか分からず

「え、えっと、神様その方は?」

「ああ、優気君すまない、放っておいてしまって、この女性は」

「私は、アリス、よろしくね」

 笑った顔にまた見惚れそうになったが気をしっかりと持って

「アリスさんも神様なんですか?」

「いいえ、私は天使よ。普段は神様のサポートをしてるの」

「そうなんですか」

「私がここに来たのも仕事の手伝いをしにきたのだけれど」

 アリスは神様に鋭い視線を送り、神様は目を逸らした。

「神様の仕事というのは?」

「死んだ魂を次の生に導くことを主にしているはね」

 優気は、アリスの言ったことがよく分からず頭を悩ませていると

「転生という言葉は知っているかしら?」

「あっ、はい、アニメや漫画で聞いたことあります。あれ?てことは?」

「そう、優気君が望めば異世界に転生することが出来るわ」

「異世界かぁ」

 異世界という言葉に少し胸を膨らませていると

「ダメじゃ! 優気君は転生させない」

「えっ?」

「どうしてそんなことを言うんですか。誰でも望めば無条件で転生させるのがルールだった筈です」

「彼は、彼は、優しすぎる! モンスター退治とか向いてない!」

「それを決めるのは私達じゃありません。優気君はどうしたい?」

「僕は・・・異世界に行ってみたいです。自分の力で何が出来るのかちゃんと知りたいです」

「それは、ここにいても知れる筈・・・」

「神様、優気君は自分の意思で決めました。わがままを言わないで下さい」

「わ、分かった。じゃが、せめて職業だけはわしが・・・」

「残念ながら職業もすで決まっております」

「な、何! 一体何じゃ、勇者か、賢者か、変な職業だったら許さんぞ、わし」

 アリスは神様に優気の職業が書かれた紙を渡す。神様は、慌ててその紙を見る。

「<<テイマー>>じゃと?」

「テイマーとは珍しいですね。ですが、転生先の世界ではあまり好まれて無かったような」

「そんなもの優気君の職業にはさせられん! 決めたのは誰じゃ! わしが文句を言ってくる」

「やめてください!」

 この場所から離れて文句を言いに行こうとする神様を必死に止めるアリス。どうして神様が怒っているのか分からない優気はテイマーについて聞いてみた。

「テイマーってどういうものなんですか?」

「テイマーは、色んな生き物を自分の物に出来る職業なの、でも色々と不便なことが多いらしくて・・・」

「てことは、いろんな動物と仲良くなれるってことですか?」

「えっ?」

 優気の発言にアリスは驚き、神様も足を止め優気の方を見ていた。

「神様、僕このテイマーという職業で異世界に行ってみたいです。たくさんの生き物に会って、触れて仲良くなりたいです」

 優気の純粋な眼差しに神様も心が折れ

「そうか、分かった。ならば、わしも何も言うまい」

「頑張ってね、ここから応援しているわ」

「はいっ! 頑張ります!」

 優気は、最高の笑顔で力一杯の返事をした。

「それじゃあ、最後にわしからプレゼントじゃ」

 神様は、優気に向かって手をかざす。優気の体を光が包みそのまま体の中に入っていった。

「今のは?」

「必要最低限の魔法やスキルを与えておいた。それと何か欲しい力があれば授けよう」

「・・・それじゃあ」

 神様からスキルをもらい、魔方陣の上に立つ。

「この魔方陣から君を転生させるわ。こちらからの一方通行だから止めるなら今のうちよ」

 優気は首を横に振り

「大丈夫です、よろしくお願いします」

 と言った。それを聞いたアリスは魔方陣を起動させた。神様は、優気の前に立って

「体に気を付けて頑張るんじゃよ」

「はいっ! 神様、アリスさん、本当にありがとうございました」

 優気が深く頭を下げると異世界へと旅立って行った。

「優しい子でしたね。最後に望んだ力も誰かのためにという思いを感じました」

「うむ、本当に優しい子じゃよ。そんな彼の為に力になってくれる存在が現れたら良いのじゃがのう・・・」

 優気を見送った神様の目は優しくも温かい目をしていた。

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