第五話 過去

空が、青い。

若葉が茂って、陰陽がくっきりとついている。


__ああ、また夢か。

傷だらけの体を起こし、すぐ側の母屋へと向かう。最近は20世紀から21世紀になっただのあーだのこーだの喧しくてしょうがない。世界がどうなったとしても、自分の今は絶対に変わらない。

神道的に自分は忌人であることに変わりはない。それのせいで家族や親族から迫害を受けているのにも変わりはない。大体、まだ五才の子供を忌人だから迫害するのは虐待以上であると思う。


音を立てずに母屋の戸を開け、冊子を取る。また、音を立てずに戸を閉め、森の方へ駆ける。最近の子供の様に走って遊んでいるのは性に合わない。少し古いが、いつか役に立つと思い、本を読んでいる。


何時間、経っただろう。九字を五つ覚えた辺りだ。

「臨兵闘者皆陣列在前……臨む兵、闘う者、皆 陣列べて 前に在り……」

「花音ー?夕飯よー。」

母は前掛けをたたみ、呼び出す。

夕飯の時間はとても気が楽で、ほんの少しだが家族の輪に入れている、そんな気がする時間だ。


父親さえ、居なければ。


私がそこに行くと、父親は一杯くらっていた。顔は赤く染まり、状態なんて一目で分かる。

「花音!!また来たのか!!」

父親は私の胸ぐらを掴み、殴りかかる。

「お前さえ居なければ俺は本家になれたんだ。お前なぞ……お前なんぞ……」

そう言いかけて、父親は札を出し、何かを唱える。それは私の知らない、不思議な言葉だった。

「さらば、花音」

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