第三話 酔っ払い
「はい?」
花音の二の腕位の高さの瓢箪の中は空っぽになったのだろう、落とした時に中身がない音がした。肝心の花音は顔を赤らめ、鋭く睨み付けるような目付きだが、声は柔らかい。
刹那、自分の体が軽くなった。いや、違う。軽くなったのではなく、足が地についていないのだ。俺はそのまま勢いよく頭から地面にぶつけた。何があったのかと顔を上げると、そこには花音が居た。
「ニヒヒ……遅いですよ。」
まるで別人だった。さっきまでの大人びた涼しい顔ではなく、子供のような無邪気な笑顔だった。だが、その笑顔は見るだけで命を刈り取っていきそうな恐ろしいものだった。
「かの……っ!!」
呼び掛けようとしても、その前に目を潰しにかかってくる。避けるだけで息があがる。あちらは殺気丸出しで、本気でかかってきている。やるしかないと思い、構える。
すると花音は、どこにあったのか刀を持ち出した。庭の石に擬態していたのだろう。
刀は月の光を反射し、青白く輝いている。その奥には獲物を狙う狼のような、鋭い深紅の目がこちらを狙っている。目を逸したら、喰われてしまいそうだ。
風が吹く。次第に強くなる。
恐ろしくて息も出来ない程の緊張感。汗が一筋流れる。
相手は刀、自分は素手。傍から見たら、不平等だろう。俺もそう思う。
砂利の音がしたとき、相手が動いた。構えから、左肩から右腹に向けて斬るのだろう。
俺は花音の右腕を掴み、左手で胸ぐらを掴む。そして体を引き寄せ、背負投をする。花音は体制を崩し、倒れ込む。
花音はピタリと動かなくなった。
「花音?」
俺が呼び掛けても、起きない。息はしているので、衝撃で気絶したのだろう。
今回、思い知った事がある。
「花音に酒は飲ませないようにしよう……」
呟きは風に消され、残ったのは乾いた笑いだけだった。
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