第四話 幻時々妖

 突如、襖紙が全て破れる。強風が吹き荒れ、立つのもやっとである。全身から体温が奪われ、手は小刻みに震え始める。寒くも無く、暑くもないのにどうして。

 答えは目の前に居た。それは人の形をしていなかった。鋭い牙を持ったそれは、舞い上がった砂埃の中から顔を出す。鋭い牙、ピンと立った耳、濃い灰色の毛、間違いなく人狼だった。俺は逃げ出そうとしたが、足が動かない。人狼に気付かれ、終わったと思った時__影が見えた。


 その影は俺の横をすり抜け、人狼の心臓部を一突きする。コンマ数秒間のその光景は自分の目を疑った。煙の中から白髪で緋目あかめの少女のような出で立ち__この家の家主が右腕を真っ赤に染めて、俺の方に近付く。

「怪我はありませんか?」

 彼女は俺の手を両手でそっと優しく包む。不覚にも、ちょっとときめいてしまった。

「そういえば、自己紹介していませんでしたね。」

 彼女はにっこりと笑う。

「私は竹内花音たけなかかのん。ここの神主です。あ、言っておきますが、私は十二歳の女子おなごでは無く、二十四歳の男ですよ。」

 彼女__いや、ははっきりと言った。


 男……?

 その後、男性の途轍もない叫びが、けたたましく響いたのは言うまでもないだろう。

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