第三話 家主

 幾ら叫ぼうと、微塵も音を感じることが出来ない。そう、誰も居ないのだ。喉が渇き、息をするごとに激痛が走る。家の前で疲れて座り込んだ時だ。小さな影がこの濃霧のうむの中、動いている。それがこちらに近づいていることは間もなく知った。それは俺の存在に気付いたのか、俺の目の前に立つ。逆光で顔は見えなかったが、かなりブカブカな着物を着ており、ピッタリサイズの袴を履いていた。

「どうしましたか?」

 声は高く、ゆったりとした口調だ。第一印象は大人しい女の子と言う所。

「道に迷いまして……」

 すると、女の子はポケットから何か出す。

 まさか小型の隠しナイフでも仕組んでいるのではと思い、身構える。だが、取り出したのは銀色の所々凸とつがある棒状の物__鍵だった。彼女はそれを戸の真ん中の鍵穴に挿し、右の方向へと回す。ガチャという音と共に、彼女は戸を右に開く。

「どうぞ。」

 優しいその声は、一瞬だが俺の昔の日々を暖かく包んでくれた、気がする。


 ✿❀✾✿❀✾✿❀✾


「失礼します……」

 平屋の家の中は独特な雰囲気で、何もしていないのに足が竦む。客間に案内され、彼女は台所らしき所に行った。

 客間には、書物や呪符があった。彼女は神主兼陰陽師なのだろうか?とにかく、深く詮索しない事に越した事はない。どうせ左腕のを見せたら追い出されるんだ。だが、人間は興味を持ってしまうと知りたくなってしまう欲がある。俺は彼女がまだ来ていないことを確認し、それらに触れてみようとする。だが、案の定結界が張られており、触れる事も叶わなかった。

 そして、その直後だ。

 俺の人生を変えたのは

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