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 苛烈で猛然たる競争者であったが、同時に競争にあたっては常に高潔かつ公正だった、と。


 私の父を高く評価する人の中には、一定数そう言いたがる類の者がいた。彼らは父の持つ激しさの中に、正々堂々たる闘士の姿を発見したがっていた。

 

 私はそうでないことを知っていた。


 知ったのは、これもまた私が12、3歳の頃である。


 アクの強い成功者の常として、父の周辺にもやはり敵意と疑念はつき纏っていた。中央にさえ聞こえた地元の名士へと成り上がった立志伝中の事業家、その拡大の裏にある醜聞を暴き立てたいといういくつもの甘美な試みは、しかし今日に至るまで結実した試しはなく、格の低いゴシップ誌の紙上で疑惑を仄めかすに留まっていた。

 

 当時そうしたゴシップ誌を賑わせていたのは、ある地元議員と父との癒着だった。利益供与と献金というごく聞き慣れた汚職の筋書きに対して、父はメディアを前にして怒り狂った様を見せつけ、ひと際強く吼え詰ってみせた。


「会ったことすらないのに」、と。


 その日、私はまさに、父と地元議員との密会の現場を目の当たりにした。

 結論から言えば、父の咆哮は怒りの表出というよりも、欺瞞に他ならなかった。怒りの演技を通して、不当な嫉妬に怒れる成功者――競争社会たるこの国における、善き野心アニマル・スピリッツの体現者としての皮相を見事被り通すことに成功したのだ。

 自己演出の手管においても、密会の段取りを整え実現するにあたっても、父の欺瞞の試みは巧みであったし、その巧みさそのままにことは見事に成功の運びとなったといっていい。漏れ聞こえてくる言葉は、誌面を拾い読んだ程度の少年の私にも、ゴシップが仄めかす疑惑に確証を与えるに十分な内容だった。


 『画になる経営者』として、父はその相貌においても持て囃されていた。

 彼は恰幅の良い中年男で、若き日にフットボール・クラブのキャプテンとして鍛えた分厚く肩幅の広い体躯は、白髪交じりの豊かな金髪と相まって、その相貌は時にライオンにも擬せられていた。


 父と地元議員は肩を寄せ合うように話し合い、ごく短い会話の最後に、お互いの両手を擦り合わせるように固い握手を交わした。薄く金色がかった体毛を備えた太く長い二十本の手指が互いを撫でさする様は、私の胸中に、反射的に強い嫌悪感を巻き起こした。


 それはちょうど数日前、偶然テレビのドキュメンタリー番組で見かけた猿のグルーミングを思い起こさせた。

 

 その瞬間、私は父の姿、豊かな金髪と多く皺を刻んだその相貌に――獅子にも擬せられた勇壮な――顔に、ある種の狒狒じみた類人猿の相貌を重ねてしまった。


 父への反発は、この日、侮蔑と憎悪を備えた嫌悪感へと形を変え胸中に根を下ろしたのだった。

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